研究実績の概要 |
Cu(In,Ga)Se2に代表されるカルコパイライト薄膜におけるアルカリ金属添加効果(添加によってデバイス性能が飛躍的に向上する)の解明は、薄膜太陽電池材料において長年の課題である。近年、既に広く知られていたNaの効果だけでなく、比較的重いアルカリ金属元素であるK、Rb、CsといったNa以外の添加効果について特に大きな関心が集まっている。本研究課題ではその中でもRbに注目し、これまでその効果解明に向けた研究を行ってきた。本年度はCu(In,Ga)Se2のIII族元素とアルカリ効果との関連性に着目し、薄膜特性とデバイス特性両方の観点から検証を行った。結果、アルカリ効果の発現にはInの存在が特に重要で、これを含まないCuGaSe2系では、デバイス性能向上の効果はほとんど見られないことがわかった(S. Ishizuka, et al., J. Phys. Chem. C 2018, 122, 3809-3817)。また、Inを含有するCu(In,Ga)Se2やCuInSe2薄膜では、アルカリハライド処理によるRb添加によって、薄膜表面にRb化合物が形成されるが、CuGaSe2ではそのような化合物が形成されないことが新たに明らかになった。また、アルカリ金属添加によって、Cu(In,Ga)Se2中の準安定アクセプタ形成がより活性することがわかり、他方、この原理を利用することでバッファ層を用いずに作製したCu(In,Ga)Se2太陽電池デバイスでも高い光電変換効率を実現できることがわかった(S. Ishizuka, et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 2017, 9, 31119-31128, Adv. Energy Mater. 2018, 8, 1702391)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Cu(In,Ga)Se2におけるアルカリ金属添加効果のなかでも、特にRb(ルビジウム)添加効果について集中的に研究を行い、RbがCu(In,Ga)Se2薄膜中にどのように存在し、どのような理由でデバイスの高性能化に繋がるのかなど、メカニズムの解明をかなり進めることができた。Rb以外のアルカリ金属の効果についても並行して検証を進めることができ、アルカリ金属とCu(In,Ga)Se2太陽電池の高性能化との関連性が明らかになりつつある。特に本研究で見出したCu(In,Ga)Se2を構成するIII族元素の種類とアルカリ金属効果との関連性の報告はこれまで皆無であり、極めて価値の高い新しい発見と言える。 一方、Cu(In,Ga)Se2へのSi添加は、Cu(In,Ga)Se2薄膜中のアルカリ金属の拡散分布に大きな影響を与えることを初めて見出した。これを応用したバッファフリーCu(In,Ga)Se2太陽電池で従来のバッファフリー構造デバイスで得られていた性能を大きく上回る光電変換効率を達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
アルカリハライド(KFやRbFなど)を用いてCu(In,Ga)Se2製膜後にアルカリを添加する手法では、Cu(In,Ga)Se2薄膜表面に凹凸構造が形成され、これがその後の工程でのp-n接合界面形成に大きな影響を与えると考えられる。アルカリハライド処理によって形成されるこの凹凸構造は、アルカリ金属に起因する化合物がCu(In,Ga)Se2薄膜表面に形成されたためと考えられる。H30年度では、形成されるアルカリ化合物とCu(In,Ga)Se2薄膜表面の凹凸構造の形成との関連性をより詳細に調べるため、簡易型AFM装置を購入し、その表面形状分析をさらに進める予定である。また、Inを含まないCuGaSe2では、Inを含むCu(In,Ga)Se2やCuInSe2とは全く異なる薄膜表面形態変化やデバイス特性変化がアルカリ添加によって見られるため、この原因についても引き続き、薄膜・デバイス両方の観点から検証を進める予定である。
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