研究課題/領域番号 |
16K04979
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
林 真至 神戸大学, 工学研究科, 名誉教授 (50107348)
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研究分担者 |
藤井 稔 神戸大学, 工学研究科, 教授 (00273798)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Fano共鳴 / 多層膜系 / 表面プラズモン / 導波モード / 表面増強 / 光チューニング |
研究実績の概要 |
本年度は、主として無機多層膜系によるFano共鳴の実現及び機能性色素をドープした導波路を有する多層膜構造でのFano共鳴の光チューニングに関して研究を実施し、以下の成果を得た。 1.無機多層膜系でのFano共鳴の実現:電磁気理論に基づいて、SF11, Al, SiO2, Al2O3, Airからなる多層膜系の反射スペクトルをシミュレーションし、鋭いFano共鳴を発現させるための構造パラメータを決定した。シミュレーション結果を再現するべく、実際に無機多層膜系を真空蒸着及びスパッタリング法により作製し、角度スキャン反射減衰(ATR)スペクトルを測定した。その結果、明確にFano共鳴を観測することに成功し、さらにSiO2膜の厚さの制御により共鳴幅を制御することにも成功した。詳しい理論解析の結果、今回観測されたFano共鳴は単純な単一の共鳴ではなく、共鳴が2つ重畳したDouble Fano共鳴であることも判明した。 2.Fano共鳴の光チューニング:DR1はアゾベンゼン系の色素分子であり、光照射によりtrans-cis光異性化が生じることが知られている。この色素がドープされた有機薄膜PMMA膜では、光異性化によって屈折率の変化が生じる。我々はこの現象に着目し、DR1-dopped PMMA膜を導波路とする多層膜構造を実際に作製し、光照射しながらATRスペクトルを測定する pump-probe ATR測定を行った。その結果、シャープなFano共鳴は光照射によって共鳴位置がシフトすること、またそのシフトは照射光の強度に対して非線形的に変化することを見出した。詳しい解析により、照射光の偏光に対する依存性、照射光強度依存性をうまく再現できる理論式を見出し、光チューニングの詳しいメカニズムを明かにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究の初年度に当たり、実験的研究に関しては、先ず試料作製に必要な真空蒸着装置の整備から開始した。装置の整備・調整には約2ヶ月を要したが、立ち上げ後は順調に動作している。また、光学測定系は従来から有しているものが多少の組み換えのみで使用可能であり、こちらの方も順調に作動してる。理論的解析については、新規の計算プログラムも作成し、種々の解析が可能となっている。これらに基づき、実験及び理論面において、前述のような進展がみられた。以上により、総合的に見て研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果を踏まえて、以下の通り研究を推進してゆく。 1.Fano共鳴の先鋭化:上述のように既に無機多層膜系でFano共鳴の観測に成功し、また共鳴幅を制御する方策についても、確認している。今後は、現在の多層膜試料系でどこまでFano共鳴を先鋭化できるのか、実験及び理論の両面から追及して行く。理論的なシミュレーションの結果からは、Fano共鳴の線幅を決定づけるもっとも大切なパラメーターは、導波路層の屈折率の虚数部であることが示唆される。薄膜の屈折率の虚数部は、実際に作製される薄膜の膜質(内部不均一性や表面粗さ)に大きく依存する。従って、極めて鋭いFano共鳴を実現するには、極めて膜質の良い導波路膜を作製することが必要となり、そのための物質選択と薄膜作製法に関する検討を常に加えながら、研究を推進する。 2.表面増強分光への応用:極めて鋭いFano共鳴が達成されると、極めて高い電場増強が導波路内部および表面で実現されることが理論的に予測される。この高い電場増強を表面増強分光に応用することが、次の課題となる。まずは導波路表面に蛍光性の色素分子を吸着させ、その表面増強蛍光を測定する。また、我々の多層膜系では色素分子を金属表面からは遠い位置に配置でき、いわゆる表面プラズモンによる蛍光増強で問題になる蛍光のクエンチングは避けることができる。色素分子を吸着した系で蛍光増強が最大となるような構造パラメーターをあらかじめ理論的シミュレーションで見出し、実験的に実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初新規に簡易型真空蒸着装置の購入を予定していたが、既設の真空蒸着装置を整備することにより、より高度な試料作製ができることが判明した。そのため、簡易型真空蒸着装置は購入せず、既設の真空蒸着装置の整備、再立ち上げを行った。結果として、真空蒸着装置に関する支出が抑えられた。また、外国出張旅費の支出を想定していたが、本科研費を使用しての外国出張はなかったため、その分の支出が抑えられた。これらの理由により、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降は、新たに蛍光分光測定を行う。物品費は、試料作製のための消耗品購入以外に、蛍光分光測定に必要な光学素子等の購入にあてる。また、現時点で国際学会参加を最低2回予定しており、外国出張に旅費をあてる予定である。
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