本研究は,近年注目される医療応用を念頭に置いて,プラズマを使って効率的に酸化させる方法を確立させるものである。生体分子やアモルファスカーボン膜など炭素で構成される膜の酸化について,多重内部反射赤外吸収分光法(MIR-IRAS)のその場・実時間計測を用いて調べてきた。昨年度はエーテル(C-O-C)を原料として用いたプラズマCVDの研究で,C-OHの形成よりC=Oが優先されると考察した。エーテル構造につながるアルキル基の種類をエチル基,プロピル基,ブチル基へかえて実験を行った。その結果,ノルマル基(直鎖上の構造)の場合にはC=Oが形成されやすいが,第2級以上ではC=Oの形成とともに,OH基が形成されることが分かった。アモルファス炭素膜上にC=Oが形成されると,膜と純水の接触角が90度から60度へと減少し,膜の親水性自体は向上する。一方,膜上にC=Oに加えOH基が形成された場合,膜と純水の接触角が90度から30度へと激減し,膜の親水性が格段に向上することが分かった。第2級以上の炭素原子とそれにつながる酸素原子は,ノルマルの炭素原子の場合と比べ,切断されやすくなるため,プラズマ中でO原子が原料分子から放出され,これが酸化に寄与していることが分かった。プラズマ中でのO原子の生成がやはり酸化に寄与しているといえるものである。分子の構造をかえると,酸化を制御できることが分かる。有効な酸化手段として,酸素原子を放出されやすい構造の分子を用いるなどにより酸素原子の生成が有効であるといえる。一方で,プラズマ中で酸素が分子から解離して成膜された場合,炭素膜中のダングリングボンド密度が増大している可能性があり,この影響で酸素原子と結びつく炭素化水素の密度が高かった可能性もある。今後,この点も解明していく予定である。
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