研究課題/領域番号 |
16K04995
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
松田 良信 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (60199817)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | スパッタリング / マグネトロン / イオンエネルギー分布 / 減速電界型エネルギー分析器 / 透明導電膜 / 金属添加酸化亜鉛 |
研究実績の概要 |
各種の酸化物ターゲットを用いた直流もしくは高周波マグネトロンスパッタリング法が現在広範に利用されている.そこでの共通する課題は,ターゲット浸食領域に対向する基板面内で,膜質が著しく劣化することである.この原因は,酸化物ターゲット浸食領域から放出され陰極シース内で加速された高エネルギー酸素負イオンが対向基板に入射するために,過剰な酸素供給と微結晶化が生じ,その結果,キャリア密度が低下しキャリア移動度が低下するためと考えられているが,その詳細は未だによくわかっていない. 本研究の目的は,スパッタリング成膜環境下で基板に入射する正・負イオンのエネルギー分布関数を安価で簡便に計測することができる減速電界エネルギー分析器を開発し,それを用いて基板入射エネルギー束を定量的に評価し,酸化物ターゲットのスパッタ成膜過程を明らかにすることである. H28年度は,まず,通常対向設置基板上へのGa添加ZnOのRFマグネトロンスパッタリング成膜の最適化条件を探索した.RF電力が大きくターゲット・基板間距離が小さいほど,膜の導電性が向上し,Ar気圧1Pa,RF電力200Wでターゲット・基板間距離が2cmのとき,基板端部で2.3E-4Ωcm,ターゲット浸食領域対向部で1.4E-3Ωcmの抵抗率を確認した.基板端部での抵抗率は世界的にもトップクラスの値が得られた.しかし,ターゲット浸食領域対向部での抵抗率は約6倍高く,抵抗率の不均一性が解消されない. 以上の結果を踏まえ,スパッタリング環境下で正負イオンのエネルギー分布を測定するために,減速電界エネルギーアナライザ(RFEA)を設計・制作した.研究に必要な必要物品類を購入し,高周波マグネトロンスパッタリング装置において,試作したRFEA の基本動作特性の評価を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
通常対向設置基板上へのGa添加ZnOのRFマグネトロンスパッタリング成膜特性を,ターゲット・基板間距離,動作気圧,高周波投入電力などを様々に変化させて調査していたところ,追加採択課題として交付の決定が10月末になされた. H28年度は,まず,通常対向設置基板上へのGa添加ZnOのRFマグネトロンスパッタリング成膜の最適化条件を探索した.RF電力が大きくターゲット・基板間距離が小さいほど,膜の導電性が向上し,Ar気圧1Pa,RF電力200Wでターゲット・基板間距離が2cmのとき,基板端部で2.3E-4Ωcm,ターゲット浸食領域対向部で1.4E-3Ωcmの抵抗率を確認した.基板端部での抵抗率は世界的にもトップクラスの値が得られた.しかし,ターゲット浸食領域対向部での抵抗率は約6倍高く,抵抗率の不均一性が解消されないことを確認した. 以上の結果を踏まえ,スパッタリング環境下で正負イオンのエネルギー分布を測定するために,4枚グリッドとコレクタから成る減速電界エネルギーアナライザ(RFEA)を設計・制作した.マグネトロンスパッタリングでは,ターゲットから放出される二次電子がマグネトロン磁界に捕捉されるため,高エネルギー二次電子がRFEAに入射することを考慮する必要がないため,リペラーグリッドを利用する方式を採用した.直線導入端子を利用してターゲット面に対して装置全体を平行に移動可能な構造とした.RFEAの動作試験の実施に必要な周辺機器類の選定とほとんどの購入品の納品が平成28年2月に完了し,RFEAの基本動作特性の評価実験にとりかかった.その矢先,研究で使用中の真空排気用ターボ分子ポンプのオーバーホール点検が必要になり,基本動作特性の確認実験を一時中断中である(2017年5月から再開予定).
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今後の研究の推進方策 |
1.試作したRFEA を用いてZnO 系酸化物ターゲットのマグネトロンスパッタリングにおいて,正イオンエネルギー分布関数の測定を行い,基本動作特性を評価する.(1)正イオンのエネルギー選別用グリッド電圧に対するコレクタ電流の微分波形を求め,正イオンのエネルギー分布関数を求め,SN 比を確認する.(2)正イオンのエネルギー分布関数が過去の報告や理論的予測と矛盾しないか確認する.(3)正イオンのエネルギー選別用グリッドに,三角波もしくは鋸波に変調した正電圧を印加するなど,エネルギー分布関数測定の高速化とSN 比向上が図れないか調査し,測定の最適化を行う. 2.次に,ZnO 系酸化物ターゲットのRFMS またはDCMS 時の基板入射正・負イオンのエネルギー分布測定を次の手順で実施する.正イオン選別グリッド電位をすべての正イオンが反射するようにした状態で,電子・負イオンのエネルギー選別グリッド電圧を変化させ,電子と負イオンによるコレクタ電流が確認できるか,電子と負イオンがエネルギー選別されて測定できるか,SN比の観点から調査する. 3.次に,RFEA 内へのスパッタ成膜によるRFEA 検出信号の経時変化を調査し,スパッタ膜付着の影響を評価するとともに,成膜保護板の追加設置やスパッタ電力の低減などにより長寿命化を図るなど,RFEA のさらなる改良改善を行う 4.ZnO 系酸化物ターゲットのマグネトロンスパッタリング成膜において,動作気圧,投入電力(ターゲット電圧),RFEA 計測位置が正・負イオンのエネルギー分布に及ぼす影響を調べ,ターゲット面からの垂直位置と水平位置による負イオンエネルギー束と粒子束の変化の様子を把握する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年2月時点で消耗品予算の残予算約35万円を,ターボ分子ポンプのオーバーホール費用に充てる予定であったが,オーバーホールに約2ヶ月を要し,会計年度がまたがるためこれに支出することができないこととなった. このため,2017年度に購入を予定していたデジタルオシロスコープを購入し,残った予算約10万円をを次年度予算に回し,オーバーホール費用の支出の一部に充てることにした.
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次年度使用額の使用計画 |
ターボ分子ポンプのオーバーホール費用の一部に充てる.
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