研究課題/領域番号 |
16K05001
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金 鮮美 東京大学, 生産技術研究所, 特任助教 (90585697)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | テラヘルツ/赤外材料・素子 / 量子井戸 / マイクロ・ナノデバイス / 表面プラズモン / サブバンド間遷移 / 高感度光検出 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,電荷敏感型赤外検出器(CSIP)における特異な量子井戸構造に着目し,そこにプラズモニックナノ・マイクロ構造による光カプラ効果と,キャビティー効果を取り入れて,入射光との結合を格段に増大することで,検出器としての量子効率の顕著な向上を図ることである. 平成28年度は,研究目的に沿って下記の3項目の研究を行った. (1)光カプラ解析方法の確立:異なる検出波長を持つCSIPそれぞれに適した光カプラの設計及び解析のため,FDTD法によるシミュレーションを検討した.表面プラズモン共振で有効電場を生成する従来の金属の2次元格子構造(Cross-hole array構造)を主な対象として,有効電場分布や電場強度の波長依存性,裏面入射効果などの解析方法を確立した. (2)光入射方向の検討:裏面入射によって量子効率が向上するというシミュレーション結果が得られている.それを実験的に検証するため,Cross-hole array構造の光カプラを持つCSIPを作製し、表面/裏面入射による光応答特性を評価した.その結果,量子効率は表面入射で12%であったのに対し,裏面入射では26%と表面入射より2.1倍高い量子効率が確認でき,裏面入射が量子効率向上に有効である事が分かった. (3)ナノギャップアンテナの導入:新たな光カプラ構造として,表面プラズモンによる顕著な電場増強効果が期待されるナノギャップアンテナ構造を新たに導入した.作製したナノギャップアンテナ構造は,幅10 μmで 3~15 μmのさまざまな長さを持つ形で,CSIPのMesa構造の段差を利用してAuの斜め蒸着により最小25 nmのギャップを作製した.量子効率を計測した結果,16 %にいたる向上を示し,従来のアンテナより高量子効率を得ることができることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は,(1)有効的な光入射方向を確立と(2)プラズモニックアンテナ構造の設計を目指すことを目標とした.(1)については、裏面入射を検討し大きな量子効率の向上が確認できた.(2)についてはFDTD法によるシミュレーションで光カプラ解析方法の確立し,アンテナ構造の最適化が可能になった.実験によるアンテナ効果の評価も進めながら,ナノギャップアンテナのような新たなアンテナ構造も導入し量子効率向上を確認した.以上,設定した目標を達成できていることからおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,更なる量子効率向上を目指して,プラズモニックアンテナを持つCSIP上にドーム型キャビティーを配置しその効果を明らかにする.アンテナ最適化に関しては,大きい受光面積に有効なCross-hole arrayアンテナ構造を多色CSIPに適用し,シミュレーションによるアンテナ最適化と共に量子効率向上だけではなく検出波長のTuningへの展開を含む新たな可能性も探索する.そして受光面積が小さい場合に有効なナノギャップアンテナは,single photon counter用の小型CSIPに適用し,従来のCSIP感度上限よりも高い値を目指しながら,プラズモニック光カプラ効果の議論を深め,研究を推進していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の研究成果で発表予定の国際会議(IRMMW 2017,メキシコ)が次年度にあり,その参加費・旅費を確保するために次年度使用額が発生した.また,single photon counter用CSIP評価に必要な精密計測機器等を追加で購入する可能性が生じたため次年度の予算として計上した.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,多様なプラズモニックアンテナ構造をCSIP上に作製し、量子効率を含む光応答を評価する予定である.サンプル作製にあたり多量な消耗品を消費する必要があると考えられる.また,作製したサンプルを評価するために精密計測機器等が必要となる.これらの購入費用として使用する予定である.
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