研究実績の概要 |
高分子系エッチング型飛跡検出器として利用されているポリアリルジグリコールカーボネート(PADC)とポリエチレンテレフタレート(PET)、ビスフェノールAポリカーボネート(PC)、ポリイミド(IP, Kapton)中に形成されるイオントラックの構造とそれぞれの検出閾値との関係について包括的な分析を行った。PADCについて、繰り返し構造内のエーテルが損傷を受けた後にカーボネートエステルが損傷を受けるようになること、トラック径方向に2つ以上の繰り返し構造が損傷を受けるとエッチピットが生まれることを実験的に明らかにした。これを受けて、イオントラックと長軸を同じくする円柱の側面を通過する電子密度をイオントラック内電子フルエンスREFITと定義し、Geant4-DNA toolkitを利用して最初の計算を行った。REFITが検出閾値を記述する有効な物理的指標になる可能性を指摘した。PET中に形成されるBイオンのトラック構造を分析し、250 eV/nmよりも阻止能が大きくなると全ての官能基がステップ状に損傷を受けやすくなることを明らかにした。ステップ状の変化と閾値との関係について詳しく分析する必要性が出てきた。PCについて、面密度の高い領域でのカルボニル基損傷の放射線化学収率は低く、面密度が高い領域では再結合が促進されていることをArやFeイオンについても確認した。Kaptonの検出閾値を分析したところ、検出閾値における検出感度はイオンの核電荷が大きくなるほど低くなることを見出した(Al, Si, Ar, Kr, Xe, and U ions)。Uイオンについては、検出閾値である3,400 eV/nmにおける感度はS = 0.04であった。核電荷が大きくなるほど検出閾値における感度が低くなる傾向はPETにおいても確認されており、宇宙放射線の計測において核電荷の決定に応用することができる。
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