研究課題/領域番号 |
16K05004
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
木下 郁雄 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 准教授 (60275021)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 熱力学温度計測 / 光電子スペクトル / 電子エネルギー分析器 / 四極子電極 / フェルミ・ディラック分布 |
研究実績の概要 |
本研究は、光電子分光により電子のエネルギー分布を測定し、その光電子スペクトルから熱力学温度を計測する技術の開発を目的として、熱力学温度計測に特化した電子エネルギー分析器として、高速で高エネルギー分解でスペクトル測定が可能とする電子エネルギー分析器を開発する。本研究で開発している半球型電子エネルギー分析器は、入り口スリットだけを設け、出口スリットを設けない。エネルギーの違う電子を半球電極で空間的に分散させ、イメージセンサーを用いて分散位置を強度測定する。本エネルギー分析器では、半球電極入射部及び出射部の空間電位を理想的な球状電極が作る空間電位に近づけるために、半球電極入射部及び出射部に複数個の櫛状の電極アレイを設け、内側半球電極から外側半球電極に連続的に変化する電位に対応させた電圧をかけられる構造を持たせてある。さらに、フェルミ準位近傍のエネルギー範囲の電子を位置検出で高いエネルギー分解能を得るために、検出するエネルギー範囲の全ての電子を半球電極の入り口スリットに結像させるために、四極子型電極を導入した。3段の四極子電極でのシミュレーション結果では、試料から±1°の範囲で放出電子を収束させた場合、1軸方向の像の大きさが0.4mmであったのに対し、それに直行する軸での像の大きさを1桁小さい0.04mm程度に抑えることができることがわかった。本研究で設計する半球型電子エネルギー分析器では、半球の動径方向での分散がエネルギー分解能を左右するため、3段四極子電極によって収束される軸を半球動径方向に選択することで、高いエネルギー分解能が期待できる。この結果を利用して、今後実際の3段四極子電極を作成し、電子エネルギー分析器を開発する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
現在まだ熱力学温度計測に特化した新規電子エネルギー分析器の開発が完成していない。フェルミ準位近傍のエネルギー範囲の電子を位置検出でスペクトル分解するためには、検出するエネルギー範囲の全ての電子を半球電極入り口スリットの結像させる必要がある。しかし、当初計画していた静電レンズの校正では、エネルギーの異なる電子を全て収束させることが困難であった(色収差)。そのため、四極子型電極を導入するように計画を変更した。四極電極に色補正の可能性を調べるためにシミュレーションに多くの時間を必要とした。 シミュレーション結果では、1軸方向に対し、非常によい結像値を得ることができ、色収差が補正できることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
①新規電子エネルギー分析器の開発 前年度に行ったシミュレーション結果により、四重極電極を導入することで半球電極入り口に色収差を十分抑えて電子を収束することが可能であることが確かめられた。今後、この四重極電極を製作し、高速かつ高感度、高エネルギー分解能をもつ新規電子エネルギー分析器を開発する。本研究の新規電子エネルギーの構成は特許性があると考えられるので、特許出願を念頭においた研究計画をすすめる。 ②熱力学温度決定のスペクトル解析手段の改良 現在の解析方法では、熱力学温度を変数にもつフェルミ・ディラック分布関数にブロードニング関数(ガウス関数とローレンズ関数の線形和)を畳み込み積分した関数を光電子スペクトルにフィッティングして熱力学温度を決定している。フィッティング変数が熱力学温度以外にブロードニング関数を構成する3つの変数があるため、計算に非常に時間がかかっている。畳込み積分に対してフーリエ変換を利用して計算することで時間を大幅に短縮することが期待できる。現在、そのアルゴリズムを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度において、電子エネルギー分析器の開発に予算を当てていたが、設計方針が大きく変わり、四極子電極に色収差補正についてのシミュレーションに時間を要したため、開発費を使用しなかった。次年度使用額を用いて、色収差補正のための3段四極子電極を製作する。
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