本研究の“光電子温度計”は、表面局在原子の温度センシング技術として、既存の温度センサでは困難とされる薄膜・ナノ表面での熱現象の解析を可能とする。また、FD分布は物質の熱力学温度だけに依存し、個々の材料物性に依存しないことから、目盛り校正の不要な絶対温度計測技術(一次温度計)となる。このことは、光電子温度計が超高真空を用いた表面分析装置等に利用される熱電対や抵抗センサ等の実用温度計の校正の新たな参照温度計として利用可能なことを意味する。さらに、熱輻射を利用する赤外放射温度計が-30℃付近を実用上の測定下限としているのに対し、極低温域を含むより広範囲の非接触温度測定が可能である。本研究は、固体中の電子エネルギー分布を原理とし、10-1000Kの温度測定の不確かさ1K以下をもつ新規な熱力学温度計、すなわち“光電子温度計”を開発することを目的とする。 本研究で開発する新規エネルギー分析器のエネルギー分解能の大きく左右するのが、試料から半球電極に電子を導くための入射用静電レンズである。通常の静電レンズは特定のエネルギーの電子を収束させる(色収差をもつ)。本装置では測定するスペクトルのエネルギー領域において、電極電圧を変化させずに同じレンズ系ですべての電子をスリットに収束させ位置検出ユニットで検出する必要がある。そのためには、色収差のないレンズ系が不可欠である。そこで、本研究では、四重極子型静電レンズの導入を検討した。 また、光電子スペクトルのブロードニング関数の形状を決定することが出来れば、光電子温度計による広範囲の温度領域での熱力学温度計測や温度決定精度の向上が期待できる。本研究では光電子温度計での熱力学温度測定の改良のために、光電子スペクトルのブロードニング関数を測定されたスペクトルから直接導出し、明らかにする研究を行った。
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