ホウ素と中性子の核反応を利用した新たながん治療であるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において用いられる中性子束のエネルギー分布の評価が重要であり、本研究では、エネルギー群別に中性子を測定するため、ホウ素吸収材と荷電粒子用シンチレーターを組み合わせた検出器中性子を開発してきた。ホウ素を含む材料を中性子吸収材として用い、その厚みを変化させることにより中性子のエネルギーフィルタリングを行う。吸収材厚みと計測した中性子量の関係についての逆問題を勾配降下法等で解くことで最終的にエネルギー群別に中性子が測定できる。 これまでの研究成果として、エネルギースペクトルを推定する際に勾配降下法やベイズ推定法を用いることで熱、熱外、高速中性子の3成分をさらに5群に分けた領域にて80%程度の一致で推定が可能であることが研究成果として得られた。しかしながら、これまでは一つの測定ごとに吸収材の厚みを変化させる必要があり実験条件の再現性に問題があった。そこで本手法の利点を生かしつつより高度化するため、今年度はマルチアノード型光電子増倍管(MAPMT)を新たに検出部に用いの改良を行った。MAPMTは一つの光電面に対して格子状の複数のアノードで構成されており、複数の光電子増倍管を数cm角のコンパクトに集合させたようなものとなっている。このそれぞれのアノードの前面に厚みの異なる吸収材を配置できることから一回の計測で複数条件のデータ取得が可能になった。ガンマ線源を用いた試験ではガンマ線によるシンチレーション光の発光強度は極めて小さく、中性子と分離できることが実験的に明らかになった。また、ラジウムーベリリウム中性子線源を用いた中性子の計測ではMAPMTにおいて2つの領域に分割され、中性子吸収材厚みの異なる2領域における中性子検出量の差から、線源の主成分が高速中性子であることを示す実験的結果が推定できた。
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