平成28年度に、アントラセンを用いた、燐光状態と基底状態での磁性の差を利用した非接触マニピュレーション実験を行い、平成29年度には蓄光材料を用いて同様の実験を行った。このとき、後者の方がはるかに応答も早く運動の範囲も広かったことから、平成30年度は引き続き蓄光材料を用いて研究を行ったが、特に力を入れたのは、次の2点であった。 【(1)運動の解析】本研究で購入したりん光測定装置で、発光の緩和プロセスを調べ、それに対応させて、物質の磁気的応答の変化を見積もった。この実験から、磁化率の変化のプロセスと、発光強度の変化のプロセスは、大きく異なっていることが分かった。そこで、2段階のプロセスを考え、励起状態にある電子が元に戻らずに、別のドープ材料のエネルギー準位へ一旦トラップされるプロセスを考慮し、それぞれの過渡応答の解析を行った。これにより、電子励起後の緩和プロセスが概ね明らかになった。 【(2)3次元物体の操作】昨年度までの実験では非接触操作に用いたサンプルのサイズが小さかったため、実験結果も質点の運動として解析することが出来た。しかし、ある程度の大きさを持つ物体を使うと失点の運動とはみなされなくなる。物体の運動の基本は、並進と回転であるが、上述のように並進運動による非接触操作可能になったので、次のステップとして、大きなサンプルの非接触操作実験を行った。ここでは、球体に近い、正20面体の物体を用い、不均一に光を当て、それによって生じるトルクを使って、物体を回転させる実験を行った。まだ、完全に成功したわけでないが、回転に十分な力を光と磁場で生み出すことには成功している。現在、トルクが足りない状態で、おそらく、これは試料内部の不均一性が原因だと考えている。 これらの研究成果は、国内外の学会で発表した。ここには、3件の招待講演が含まれている。
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