研究課題/領域番号 |
16K05015
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
間嶋 拓也 京都大学, 工学研究科, 助教 (50515038)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高速重イオン / 微小液滴 / 質量分析 / 多重電離 / 分子解離 / 生体分子 |
研究実績の概要 |
(1)液体分子線から放出される二次イオン種との比較を行うため,気相の孤立グリシンおよびヒドロキシプロリン分子に対する重イオン照射実験を行った.前年度に測定していた液体分子線からの生成イオンとの比較から,溶媒効果による分子解離反応の抑制を実験的に確認した.この結果を英文誌で発表した.さらに,最終的な目的の一つである,多重電離との相関を調べるため,孤立グリシン分子を標的として二次電子個数との同時測定を行い,相関データを取得した.また前年度に導入した,液体試料由来の気相分子標的導入システムを用いて,孤立エタノール分子に対する二次電子との相関データも取得した.現在,これらのリストデータの解析を順次進めている. (2)液滴標的を用いた実験では,モデル分子としてエタノール液滴標的を用いて,正負二次イオン種の詳細な解析を行った.これは,重イオン衝突に伴う二次イオン生成・放出過程や,多種多様な生成物に関する基本的な特性を理解することを目的にしたものである.この測定により,プロトン移動に伴うクラスターイオン生成や,単分子解離による生成物に加え,2分子以上の反応に伴う反応生成物イオンが生成されることを確認した.また,高いエネルギー付与に伴う,プラズマ化学過程に起因する分子種も検出され,重イオン衝突の特徴について新たな知見を得ることができた.これらの結果を英文誌で発表した.さらに系統的な知見を得ることを目的に,メタノール,1-, 2-プロパノールの液滴からの二次イオンのデータも取得しており,現在,その評価を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)複数の気相生体分子に対する生成物イオンの質量スペクトルのデータを取得して,液体分子線からのイオン種の違いを検証し,結果をまとめた.また,孤立グリシン分子やエタノール分子に対する二次電子個数との同時測定も行い,多重電離状態と解離イオンの相関データの取得に成功した点については,順調に進展しているといえる.しかし,液体分子線との比較データを取得するために従来システムを用いた測定を優先したことにより,当初計画していた3次元運動量画像分光システムの改良が予定よりも遅れている. (2)液滴標的に対する実験では,液相表面での反応過程の複雑さを考慮して,生体分子を溶解させた液滴に対する系統的な測定に進む前に,より単純な系である純粋なアルコール液滴に対する測定を行うこととした.これによって水素結合の組み換えや分子間の化学反応などに関して豊富な知見を得られた点について進展があった.一方,アルコール液滴に対する実験は,計画通りに進まないときの対応として考慮していたものであり,これらの現象の理解に時間をかけたことによって,生体分子に対する系統的な測定の開始はやや遅れている. 以上の利用により,全体として「やや遅れている」と評価とした.
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今後の研究の推進方策 |
(1)気相分子標的に対する測定システムにおいて,3次元運動量画像分光システムの改良を完了させる.イオン軌道計算コードを用いて決定した飛行時間分析システムの最適条件に基づき装置を完成させ,孤立生体分子に対する測定を実施する.取得したリストデータの解析を進め,多重電離された生体分子の解離ダイナミクスに関する知見をまとめる. (2)液滴標的を用いた実験では,生体分子を溶解させた液滴に対する測定を進める.溶解させる分子の濃度に対する依存性などを確認して最適な測定条件を決定し,系統的な測定を行う.また真空中の液滴標的の特性について理解が不十分な点があるので,液滴サイズ分布の評価手法の確立などを同時に進め,反応条件に関する議論の精度を高める.気相実験との比較を行い,凝縮相内での反応過程に関する知見を得る.
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次年度使用額が生じた理由 |
液体分子線を用いた測定が当初の想定よりも早く進展したため,当初の研究計画を一部変更して,従来システムを用いた測定を優先した.それにより,当初に計画していた3次元運動量画像分光システムの改造が予定よりも遅れ,そのために,本システムの開発にかかる費用が次年度使用額として生じた.時期がずれ込んだが,使用計画としては大きな変更はなく,当初計画していた通り,主に新たに設計して製作する質量分析管の導入と検出器の更新に用いる.
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