研究課題/領域番号 |
16K05016
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
永谷 清信 京都大学, 理学研究科, 助教 (30273436)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 自由電子レーザー / クラスター / 原子間クーロン緩和 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、多重励起原子集団からの原子間クーロン緩和過程の観測を実現するために、日本の軟X線自由電子レーザー(SXFEL)ビームラインである、SACLAのBL1で実験を実施した。試料には希ガスのキセノンからなるクラスターを生成し、光子エネルギー93eVの軟X線FELを照射して放出される電子のエネルギースペクトルを運動量画像型の電子検出器を用いて観測した。励起に用いるXFELパルスの強度を系統的に調整して観測した電子スペクトルからは、パルス強度の増大とともにクラスターの多重電離が促進され、高強度のXFELを照射した際にはナノプラズマ(高い密度の電子-イオンがナノメートルスケールの領域に閉じ込められた状態)が生成している事を見いだした。また簡単なモンテカルロ計算との比較から、軟X線FEL照射によるナノプラズマ形成過程において、光電離で原子から放出される光電子とオージェ電子に加え、光電子・オージェ電子がクラスター中の原子と非弾性散乱して生じる多数の低速の2次電子が、クラスターイオンの強いクーロン場に捕獲される過程が重要であることが示唆された。実験と計算の詳細な比較から、ナノプラズマ形成に対するそれぞれの電子の寄与について情報が得られると期待される。ナノプラズマ形成が確認された高いXFEL強度の電子スペクトルには、目的とする多重励起原子集団からのクーロン緩和に対応する幅の広いピークが観測され、ナノプラズマ形成後にプラズマ内での電子-イオン再結合過程で生成する高密度の励起原子集団が原子間クーロン緩和の発現に重要である事を示唆するデータを得た。本研究で観測した励起原子間の原子間クーロン緩和は高強度のレーザーによって生成するプラズマ状態で広く見られるエネルギー緩和機構であると予想され、その詳細に興味が持たれる。今後、時分割計測を用いるダイナミクス計測のための実験装置開発を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自由電子レーザー施設SACLAでの電子分光実験の実施により、研究目的である励起原子間の原子間クーロン緩和を示す実験データをキセノンクラスターで観測するとともに、それらが観測される実験条件を特定することに成功した。 運転を開始した自由電子レーザー施設の運転条件の制約のために、当初予定していたネオンクラスターから、試料をキセノンクラスターに変更するなど、やや計画の修正が必要となったが、概ね計画のとおりの進捗状況である。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究で対象とする多重励起原子集団からのクーロン緩和には、ナノプラズマ形成後にプラズマ内での電子-イオン再結合過程で生成する高密度の励起原子集団が関与していると考えられ、それらが生成する時間スケール等はナノプラズマの生成条件に強く依存する。XFEL照射によって生成したナノプラズマ中での電子-イオンダイナミクスについて理解を深める上で、これらのダイナミクスの詳細が興味深い。これまでに得られたデータや先行研究などから、対象とする緩和過程で予想される時間スケールは、FEL照射後の数ピコ秒以内と予想される。利用する装置の整備状況なども考慮して、平成30年度は、主としてXFELと光学レーザーを用いたポンプ-プローブ計測実験を目指す。時分割の電子スペクトル計測により電子緩和ダイナミクスの解明とその制御を目指して、研究を推進する。
|