研究課題/領域番号 |
16K05018
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
古田 雅一 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40181458)
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研究分担者 |
坂元 仁 大阪府立大学, 研究推進機構, 研究員 (40570560)
土戸 哲明 大阪府立大学, 研究推進機構, 客員教授 (50029295)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Bacillus subtilis / 芽胞 / 放射線照射 / 発芽 / 増殖 / 損傷 |
研究実績の概要 |
前年度の研究によりBacillus subtilis芽胞の発芽と対数増殖開始時点において加熱においては顕著な阻害効果が見られたのにかかわらず、ガンマ線照射においてはほとんど阻害効果が現れないことが分かった。
芽胞のガンマ線による死滅要因の一つとして、水に起因して発生する酸化ストレスによる間接作用があると考えられている。しかし、実際にコア内部の脱水が直接作用および間接作用を制御し耐性化に関与しているか、また、コアに多量に存在するDPAが耐性に関与するかどうかについても検討されていない。そのため、今年度はBacillus subtilis 168株とそのspoVFAB(DPA合成酵素遺伝子)欠損株に対して、挿入組み換えプラスミドを用いて耐熱性蛍光タンパク質YFP3.2またはRedoxセンサーとして用いられるroYFP1を芽胞コア内で発現させる組み換え体を作成し、芽胞形成培地に各濃度のDPAを添加した系においてコア内DPA濃度が異なる組換体芽胞を調製し、加熱処理およびガンマ線照射下におけるコア内タンパク質の安定性、生存性にDPA含量がどのように影響するのかについて検討した。
加熱処理においては、芽胞のDPA濃度の上昇に応じてコア内発現蛍光タンパク質の消光は抑制され、生存率が上昇した。このことから、DPAがコアの脱水化・自由水の減少によるコア内タンパク質変性を抑制したと推察した。一方、ガンマ線照射では、DPAの蓄積に依存したコア内発現蛍光タンパク質の消光抑制は加熱に比べ、少なかった。また、168株とDPA合成欠損株の死滅速度に顕著な違いはなく、ガンマ線はコア内発現蛍光タンパク質を失活させるもののコア内の水分に起因する間接作用よりもガンマ線の直接作用の寄与のほうが大きく、DPAの蓄積やそれに伴う脱水化のガンマ線照射に対するコア内タンパク質の保護への寄与は少ないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度の研究によりBacillus subtilis芽胞の発芽と対数増殖開始時点において加熱においては顕著な阻害効果が見られたのにかかわらず、ガンマ線照射においてはほとんど阻害効果が現れないことが分かった。この原因としては、加熱の場合には芽胞に含まれる発芽や増殖に必要なタンパク質が変性したため、阻害効果が現れた一方、放射線照射の場合は水分含量の少ない芽胞コア内に存在するゲノムDNAに直接作用し、タンパク質に対する影響は軽微であったため、発芽過程に阻害効果が表れなかった推測した。これを検証することを優先した。 今後は研究計画に従い、芽胞の発芽増殖過程の生理活性変化、細胞損傷、細胞分裂の変化を蛍光色素染色により可視化し、顕微鏡観察により評価氏、当初の目標を達成する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定に従い、Bacillus subtilis 168株から芽胞を調製し、種々の線量の60Coガンマ線を照射し,発芽増殖させ、濁度測定、フローサイトメーター等を用いて発芽増殖過程の経時変化を調べる。発芽胞子および発芽後成長段階の細胞を経時的にサンプリングし、下記に示すDNA染色試薬や酵素活性評価試薬を用いて染色する。染色条件を検討し、顕微鏡観察することにより、放射線の影響によって発芽のどのステージに異常が認められるか明らかにする。通常、発芽開始した胞子では、吸水に伴い膜透過性の蛍光染色剤が取り込まれる。Hoechst33342は生細胞および死細胞のDNAを染色することから、発芽の初期段階の評価に用いる。MitoTracker Greenは細胞膜を染色するため、発芽後成長の細胞分裂の評価に用いる。CFDAは生細胞のエステラーゼによって分解され蛍光活性を示すようになるため、発芽胞子の生理活性の指標として用いる。Propidium iodideは損傷細胞の膜を透過するが、生細胞の膜を透過しないため、細胞損傷の指標として用いる。これらの蛍光染色剤を組み合わせることにより、胞子の発芽に伴う細胞内部における代謝変化を継時的にモニターする。
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