研究課題/領域番号 |
16K05021
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
伊藤 敦 東海大学, 工学部, 教授 (80193473)
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研究分担者 |
徳田 裕 東海大学, 医学部, 教授 (20163975)
大東 琢治 分子科学研究所, 極端紫外光研究施設, 助教 (50375169)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 蛍光X線分析 / マイクロビーム / 放射光 / 毛髪 / カルシウム分布 / X線顕微鏡 / 酸化度分布 |
研究実績の概要 |
今年度は、主に毛髪Ca分布を求めるために計画した複数のX線マッピング方法の有効性の検討、それらの分析のフローの構築を行った。毛髪試料として、医学部病院にて採取した乳がん患者の毛髪14試料、健診に来院した健常女性の毛髪11試料を対象とした。 1)実験室タイプのX線分析顕微鏡(0.1mm径マイクロビーム;大学所有)によるCa分析。毛根から毛先まで1~3cm間隔で元素量を測定した。毛髪の太さによる元素量に違いは、主要元素であるSで規格化して補正した。乳がん患者、健常人問わず、毛根から毛先にかけてCa含量は増加の傾向を示した。これは先端ほど酸化ダメージの影響が大きいためと考えられる。Caの絶対量は乳がん患者と健常人で有意な違いは観察されなかったが、乳がん患者の場合はよりCa量の変動が大きい傾向が見られた。そこで、変動の前後を中心に毛根から毛先まで設定した数点に対して断面試料を作製し、次のマイクロビームによる蛍光X線マッピングを試みた。 2)放射光マイクロビームによる蛍光X線マッピング。Photon FactoryのBL-4Aに設置されたKBミラーによる約5ミクロンマイクロビームによる元素マッピングを行った。X線分析顕微鏡におけるCa変動部分において、Caがメデュラに蓄積されていることが、少ないサンプル数からではあるが判明した。 3)放医研マイクロPIXEによる蛍光X線マッピング。Photon Factoryでメデュラに顕著にCa蓄積が見られた試料に対して、2ミクロンマイクロビームによる高空間分解能でCaマッピングを行った。放射光より明らかにメデュラにおけるCa分布の詳細を観察することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験室タイプのX線分析顕微鏡での測定、注目部位の断面のCa分布の蛍光X線マッピング、同時に酸化度マッピングと実験系は順調に構築された。測定試料数の制限は、主に外部加速器施設でのビームタイムによる。Photon Factoryでは年3回、各回1日のビームタイムで合計30試料程度はマッピングできる。酸化度分布については、各回3日のビームタイムであるが、同程度の試料数を見込めた。しかしながら、マイクロPIXEは、1日に最大数試料の測定が限度であり、数多くの測定をこなし精度を向上させるリミット因子となっている。また、マイクロPIXEには別の問題も明らかとなった。Ca分布は高空間分解能で得られたが、各画素のカウントが小さく、S分布で規格化(割り算)することが困難であった。測定時間を延ばすことも考えられるが、さらに測定試料数が少なくなってしまう。今後の利用について再考する必要がある。 Caの化学マッピングを行うにあたり、1ミクロン厚以下の極薄試料作製のためクライオミクロトームを導入した。現在、作製方法の習得中であるが、SiN基板上に十分の断片試料を載せられるかどうかが課題である。
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今後の研究の推進方策 |
毛髪の供給ペースについては、X線分析顕微鏡の測定の点から、年間数十試料の現在のペースで十分と思われる。Photon Factoryでの蛍光X線マッピング及び酸化度イメージングについては、さらに試料数を増やし精度を上げることが必要である。放医研のマイクロPIXEは、空間分解能が高い画像が得られたことは大変魅力的であるが、定量的解析に不向きである。量研機構高崎研のマイクロPIXEの利用について情報を得る予定である。ビーム強度が放医研より高いので、画素あたりのカウントも高いことが期待できる。 分子研走査型軟X線顕微鏡(STXM)によるCa-L吸収端での化学マッピングのために、試料作製方法に目処をつけ、2017年度後期に測定を試みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
毛髪試料を載せるための基板としてSiN薄膜を消耗品として大量に購入しますが(20万円-30万円/100枚)、100枚単位での納品のため、8万円余りでは購入できず別予算で購入したためです。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度配分額と合わせて、SiN購入に充てる予定です。
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