研究課題
磁気対相関関数(磁気PDF)を用いた局所構造解析の適用例としてスピングラスを示すMn0.5Fe0.5TiO3の局所磁気構造を調べた。その結果スピングラス状態において短距離磁気相関しかもたないこと、2つの異なる磁気構造が競合していることを反映した磁気PDFが得られた。磁気PDF解析が特に短距離磁気相関しかもたない磁性体の磁気構造を調べる上で有効であることを示す目的で、約20 K以下でスピングラスを示すイルメナイト化合物Mn1-xFexTiO3をその適用例として取りあげた。先行研究からは、この系はx=0(MnTiO3)およびx=1(FeTiO3)では反強磁性長距離秩序を示しそれぞれ異なる磁気構造をもつが、x=0.5付近では2つの磁気構造の競合により長距離秩序をもつことができず、スピングラスを示すと考えられている。Mn0.5Fe0.5TiO3の粉末試料を固相反応を用いて合成し、J-PARCに設置されている高強度全散乱装置NOVAにおいて中性子回折実験を行った。得られた中性子回折強度から磁気散乱成分を抽出し磁気PDFを導出した。スピングラス状態における磁気PDFをみると、磁気対相関ピークの強度が距離とともに急激に減少しており、このことはスピングラス状態においては短距離の磁気相関しかもたないをあらわしている。また得られた磁気PDFはMnTiO3およびFeTiO3の磁気構造から期待される磁気PDFの線形結合でよく再現できることがわかり、先行研究で指摘されている2つの磁気構造の競合と一致する結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度に磁気PDF解析手法の一連の流れをほぼ確立することができている。さらに平成29年度はこの手法をスピングラス物質Mn0.5Fe0.5TiO3に適用することによって、スピングラス状態における短距離磁気相関を観測し、さらに局所磁気構造を調べて2つの磁気構造が競合していることを確認することができた。これによってこの手法が短距離磁気相関しかもたない磁性体の局所磁気構造を調べる上で有効であることを確認できたと考えている。
さらに磁気PDF解析法を用いて短距離磁気相関をもつ磁性体の局所磁気構造解析を行っていく。今年度は低温で反強磁性長距離秩序によるブラッグ散乱と大きな散漫散乱が同時に観測されている金属磁性体を取り上げ、粉末試料についてJ-PARCに設置されている高強度全散乱装置NOVAを用いて中性子回折実験を行う。得られた回折強度データから磁気PDFを導出して局所磁気構造を調べることにより、反強磁性長距離秩序と短距離秩序が共存する理由を明らかにする。このような研究例を増やしていくことにより、磁気PDFを用いた局所磁気構造解析の有効性をアピールしていく。
出張にかかる費用、および試料合成用の試薬の購入にかかる費用が予定していた金額より少なかったため。磁気PDF解析を適用する候補物質を合成するための試薬の購入、それら物質の中性子散乱実験に必要となる消耗品の購入に充てる。
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Physical Review B
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