室温イオン液体(イオン液体)は微視的な構造を持ち,機能性発現の理解において微視的物性の評価は重要である.陽電子をイオン液体中に入射すると,トラック末端で電子と結合し,ポジトロニウム(Ps)を形成する.Psは液体中では分子を押しのけ,一方,液体の表面張力はバブルを押しつぶそうとし,そのバランスでバブルが形成される.三重項状態のortho-Psは自己消滅寿命が140ナノ秒と長いため,バブルの表面に存在し,陽電子と一重項である電子と数ナノ秒で対消滅する.通常の液体中ではバブルの大きさは一定で,消滅率も一定であるが,イオン液体中では消滅率がGHzで振動していることを融点の近くで見出した.いろいろなイオン液体においてその振動の温度依存性を測定すると,バブルの大きさが異なる場合でも,振動周期の温度依存性はほとんど変化しないことを見出した.このことから,イオン液体中では,Psバブルの大きさは,ほかの液体のように表面張力に支配されるのではなく,イオンのクーロン力で構成されている固い構造で囲まれた空間の大きさが支配し,振動は,この固い構造にPsが与えた変位に対して比例した反発力によって起こっていることを突き止めた.高温では表面張力が低下することで,通常バブルが大きくなるが,そうならないことが予測され,150℃までの測定を実施し確かめた.さらに,ortho-Psの消滅寿命が高温ほど短くなる結果が得られ,ortho-Psの反応が起こっていることが予測された.イオン液体中ではクーロン力による構造に囲まれた空間にPsが存在すると考えられ,よって,Psとカチオンラジカルとの反応にかご効果が期待され,量子ビートの出現が予測され,その確認にも成功した.また,産総研の垂直型陽電子ビームでは,イオン液体液面近傍の測定を実施できるが,表面近傍には融点から130℃上でも構造が存在し続けることが明らかとなった.
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