研究課題/領域番号 |
16K05028
|
研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
大原 高志 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主幹 (60391249)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 単結晶中性子回折 / X-N解析法 / 価電子密度解析 / 量子ビーム科学 / 量子ビーム測定手法 / J-PARC |
研究実績の概要 |
本研究では中性子回折で求めた各電子の調和熱振動モデル及びX線回折データによって分子中の価電子密度を可視化する「X-N解析法」のための信頼度の高い回 折データを、J-PARCの単結晶中性子回折計SENJUを用いて取得する方法を確立するとともに、発光性有機結晶における価電子密度の温度依存性の観察を目的とし ている。 平成30年度はこれまでにSENJUを用いて得られているシュウ酸二水和物結晶の単結晶中性子回折データを用いたX-N解析及び構造解析の精度をより向上させるために必要な強度補正法や消衰効果補正法の検討を行った。これらの補正法が各原子の温度因子に大きく影響することがこれまでに判っており、過去に定常中性子源を用いて得られた結晶構造と比較しつつ補正法の確立を慎重に進めている。 また、価電子密度温度依存性観察の標的分子である2-(2'-hydroxyphenyl)benzimidazole (HPBI)については、当研究で発見した新規多型(γ型)についてX線及び中性子構造解析を行うとともに、蛍光測定及び赤外分光測定を行った。その結果、HPBIのγ型多型では温度変化によって既知の多型よりも明瞭な分子内水素移動が観察され、これが既知多型に比べて強い分子間水素結合によることが示唆された。また、蛍光励起スペクトルにも大きな温度依存性が見られ、HPBIのγ型多型における蛍光特性と分子内水素移動の相関を明らかにできた。現在、X-N解析を進めるとともに、結晶中のパッキングを考慮に入れた量子化学計算を行うことで、結晶のパッキングが分子の電子状態に及ぼす影響の解明を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では同一の単結晶試料に対してX線と中性子線を相補的に用いた構造解析を計画の柱としているが、当初500KWで稼働予定だったMLFの中性子源が150KWの出力に留まったため、追加の中性子回折実験が必要となったのに加えて、研究対象の有機結晶試料における物性の温度依存性が新規多型に由来することを発見し、この新規多型の結晶構造と物性の相関を新たに評価する必要が生じた。以上のことから、当初の計画に比べて全体としてやや遅れているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、強度補正法及び消衰効果補正法を含めたSENJUによるX-N解析法のプロトコルを確立する。また、これまでに得られたHPBIのγ体についてX-N解析及び結晶中の分子パッキングを考慮した量子化学計算を行い、α体との結晶構造の違いがHPBI分子の電子状態、更には結晶の光特性に及ぼす影響を定量的に評価する。量子化学計算については主に所属機関が所有する大型計算機システムを利用し、可能な限り高レベルの基底関数で行う。また、本研究のもう一つのターゲットである光誘起スピン転移(LIESST)を起こす金属錯体について、単結晶の調整を行うとともに、SENJUでのin-situレーザー光照射システムを構築してレーザー光照射環境下での単結晶中性子回折測定を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度はLIESSTを示す金属錯体のin-situ光照射実験機器の整備を予定していたが、J-PARCの出力が予定より低く中性子回折実験がやや遅れていること、もう一つの研究ターゲットであるHPBIについて当初想定していなかった新規多型が得られ、その中性子回折測定および分光測定に時間を要したことから、レーザー光源をはじめとした機器の購入を令和元年度にずらした。 令和元年度は上述のin-situ光照射実験システムを構築するために必要な機器類を購入する。
|