研究課題
量子臨界現象を引き起こす秩序変数の担い手である,磁性・格子・価数,及びその結合に着目し,各々の秩序波数や微視的な電子状態について調べている.今年度はカイラル磁性体であるEuPtSiの有限磁場下の転移温度近傍において,f電子系で初となる磁気スキルミオン格子の実現が高い注目を集めており,その検証に重点をおいて研究を行った.EuPtSiについて,中性子と放射光X線を相補的に用いた単結晶散乱実験から,ゼロ磁場でカイラリティをもつヘリカル磁気構造をとること,磁場の印加に伴い,triple-q構造に起因した特徴的な六角形の散乱パターンへと変化し,磁気スキルミオン相が出現していることを決定した.これらの振る舞いは,典型物質であるMnSiと酷似しているが,周期が1/10と短い上に,印加磁場方向に対し強い異方性を有するなど,新たな特徴も見出した.格子系として研究している(Sr,Ca)3Rh4Sn13については,低温放射光単結晶回折実験を実施し,量子臨界点近傍の濃度において,構造相転移の秩序波数が変化することを見出した.これは今までに予想されていなかった新たな振る舞いであり,現在詳細な追加実験を進めている。また格子系のもう一つLu(Pd,Pt)2Inについては,主に放射光X線非弾性散乱から、当該化合物の2次構造相転移がソフトフォノンによって引き起こされる点を明らかにし、(Sr,Ca)3Rh4Sn13と類似性など、系統的な理解に向けた着実な進展が得られた.現在,成果をまとめている.以上,様々な秩序変数を対象とした物質系について,順調に成果が得られている.
2: おおむね順調に進展している
国内の研究炉の再稼働が遅れているため、主に環境整備や実験の実施について若干の遅れがある.一方で,実施した実験については,それぞれ重要な成果が得られており,全体的な進捗に大きな問題はない.
本年度得られた成果を発展させ,各秩序変数に対応した量子臨界現象の理解に迫る.カイラル磁性体のEuPtSiの磁気スキルミオンについては,印加磁場異方性など,これまでの物質系にはない特徴をまとめる.また格子系の(Sr,Ca)3Rh4Sn13については,今回発見した量子臨界点近傍の新たな構造相転移について研究を進める.普遍的な理解を目的として,さらなる物質系にも同様の研究を発展させることを計画している.
(理由)本課題の採択時期のずれ及び主たる研究施設であるJRR-3の再稼働の遅れにより当初計画に対して予算の執行が計画どおりに行えてない部分があるため、次年度使用額が生じることとなった.(使用計画)2019年度においてはJRR-3の再稼働の遅れを加味した執行計画に見直しを図り,研究環境の整備や国内外代替実験施設での実験実施に係る費用として使用する予定である.
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 5件)
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