研究課題
今年度は、新しい透過軟X線吸収分光法開発の心臓部である、転換可視蛍光の検出器に関する検討を進めた。一つ目に、真空チャンバー内で転換された可視光を検出するために、真空外に効率的に光を導き光電子増倍管に導入するための可視光輸送光学系を設計し、その製作を行った。この光学系は、真空中で蛍光基板から発光した可視光を光ファイバー内に集光するレンズ系、集光された可視光をチャンバー外に導く光ファイバーおよび真空導入端子、および真空外に接続された光電子増倍管からなり、レンズ先端は正確に発光点を捉えるために真空内で精度良く位置決めする機構を備えている。この輸送光学系をビームテインに接続して放射光による評価を行った結果、転換可視光を効率良く光電子増倍管で検出できていることが確認できた。二つ目に、透過軟X線を可視光に転換するための蛍光基板の選定と、その特性評価を行った。蛍光基板の候補として選定したGaN基板の蛍光発光特性を調べた結果、サファイヤや酸化マグネシウム等の通常の酸化物基板と比較して10倍以上、蛍光材料として用いられるCeドープYAG基板と比較しても同等の発光量が検出され、GaN基板が酸素を含まない蛍光基板材料として非常に有望であることが明らかとなった。またこの検出系においては、基板の透明度は検出感度に依存するが、背面の表面荒さは検出感度にあまり依存しないことが明らかとなり、成長面の片面のみ研磨されている通常の薄膜成長用の酸化物基板を使用した薄膜試料についても、問題なく測定が可能であることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
今年度の達成目標であった、検出器系の設計・製作と蛍光基板の選定および特性評価は概ね順調に推移している。真空チャンバー内で転換された可視光を検出するために、真空外に効率的に光を導き光電子増倍管に導入するための可視光輸送光学系は設計・製作・テスト実験が終了し、実験装置として利用可能な状態になっている。蛍光基板の選定は、限られた種類ではあるが特性評価を行い、いくつかの酸化物単結晶薄膜作製用の基板や汎用の試料支持基板として利用可能な材料を候補として見出している。
来年度からは、今年度製作可視光輸送光学系および検出器を使用し、またテスト実験により得られた知見を元に、透過軟X線吸収分光装置を完成させる。またそれと並行して、蛍光基板上に薄膜を作製し、試料の透過軟X線吸収分光測定のテスト実験を開始する。測定試料の種類により製膜方法、厚み、表面荒さの許容値などが異なることが予想されるため、テスト実験によりそれらの最適パラメータに関する知見を得て、最終的な汎用的実験手法の確立への足がかりとする。
次年度使用額が生じた主な理由としては、設備備品費として計上していた試料位置決め用真空ステージのうち一部の部品を既に保有している他の物品で代替することが可能であることがわかったので、それによる余剰金が生じたことによるものである。
今年度の装置開発が順調に進み、次年度から実試料の測定を開始していくことが可能になったので、次年度使用額は測定用試料の作製や、そのための基板の調達に充てることとし、より多くの試料の測定に取りかかる予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
Japanese Journal of Applied Physics
巻: 56 ページ: 04CK01-1 - 5
10.7567/JJAP.56.04CK01
Physical Review B
巻: 95 ページ: 125117-1 - 9
10.1103/PhysRevB.95.125117
Journal of Physics: Condensed Matter
巻: 28 ページ: 436005-1 - 7
10.1088/0953-8984/28/43/436005
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 85 ページ: 114704-1 - 8
10.7566/JPSJ.85.114704