研究課題/領域番号 |
16K05040
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
濱田 昌司 京都大学, 工学研究科, 准教授 (20246656)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電磁界解析 / 反射箱 / 高周波 / モーメント法 / 反復解法 / 収束性 / 残差切除法 / 悪条件問題 |
研究実績の概要 |
低電磁界損失の密閉環境(エレベータ・移動体・函体等)中あるいは反射箱(放射イミュニティ試験装置の一種)中の高周波電磁界は、生体や電子機器影響の観点から重要な研究対象となっているが、現在も大規模高精度計算が非常に困難な計算対象の一つである。本研究では特に無損失立方体空洞を対象とし、解析解計算法を整備するとともに、モーメント法の構成要素(境界条件式、反復解法、前処理手法などの種類)やパラメータ設定が解精度に与える影響、ならびに求解所要時間(主に反復解法の収束性)を調査し、精度改善策と計算時間の短縮策の開発や改良に取り組んでいる。 モーメント法での求解については、定番と言える混合積分方程式を使用すると解精度が極度に低下し実用解が得られず、COCG法系列の解法(COCR法やその改良版)やリスタート付きGMRESは、問題規模が増加するにつれ不安定化し収束不能となる事を、既に明らかにしている。一方、BiCGSafe法は、大規模問題でも安定に求解できるが、それでも、[a]空洞の辺長にほぼ比例して収束性が悪化し、[b]共振条件近傍で収束性が重度に悪化し、[c]共振条件の更に近傍で精度と収束性が共に重度に悪化する。そこでBiCGSafe法に残差切除法およびその改良手法(複数の近似解を用いる残差切除法;独自開発)を適用し、[a][b]のケースで改善を得た。立方体反射箱の辺長が波長の1.0倍から32.6倍(0.2倍刻み)までの計算結果では、BiCGSafe法と提案手法とが共に収束する場合の最良ケースで5.94倍速の結果を得た。また、BiCGSafe法では収束が完全に停滞するが、提案手法では収束に成功するケースも観察された。 なお、カルデロン前処理と呼ばれる手法の導入により収束性の改善には成功しているが、反復一回当たりの計算時間が増加したため、現状では全体の計算時間の改善は不十分な状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
低電磁界損失の密閉環境中あるいは反射箱中の高周波電磁界は、現在も大規模高精度計算が非常に困難な計算対象の一つである。モーメント法を用いる場合、特に混合積分方程式の使用による精度劣化が激しく、電界積分方程式を用いざるを得ず、この場合は、さらに収束性が悪化してしまう。 このような極めて困難な条件下でも、安定して求解ができる反復解法(=BiCGSafe法)を見つけ、反復解法の収束性改善技法である残差切除法が、BiCGSafe法とモーメント法との組み合わせに対しても有効であることを示した。さらに残差切除法の改良手法を新規開発し、カルデロン前処理という収束性改善手法とも併用可能であることを示した。 立方体反射箱の辺長が波長の1.0倍から32.6倍(0.2倍刻み)までの計算では、BiCGSafe法と提案法とが共に収束する場合の最良ケースで5.94倍速の結果を得た。また、BiCGSafe法では収束が完全に停滞するが提案法では収束に成功するケースも観察された。加速率は辺長の増加とともに(変動は激しいものの)概ね線形に改善し、辺長の1次式で加速率をフィッティング(BiCGSafe法が収束しないケースは除外)すると、波長の32.6倍の場合で平均加速率は2.01倍速となった。なお、反射箱の辺長が波長の47.0倍の計算にも成功しており、単発計算であれば更に大規模な問題でも取り扱いが可能である。 モーメント法で境界面上の電流場が求められた後に、空間全域の電界・磁界を計算する必要があるが、この計算の高速化と関連して、三次元等間隔直交格子上磁界の高速計算アルゴリズム(逆手順版ツリー法;独自開発)の検討も行った。 計算機環境については、メインメモリ768G、512G、256Gバイト機をそれぞれ1機、1機、2機整備し、メモリ消費量の大きいカルデロン前処理にも対応可能としている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、マルチレベル版の高速多重極法を適用したい。空洞問題ではマルチレベル版の精度低下がみられるとする先行研究があったこともあり、これまではシングルレベル版を使い続けてきたが、問題規模の拡大と共に計算時間の増加がボトルネックとなってきているため、マルチレベル版への移行を試みたい。 また、カルデロン前処理時の計算速度の改善も行いたい。現在のコードでは、プライマリ基底での高速多重極計算1回を重心基底での計算で代替しており、このため数割以上の計算速度の低下が避けられない状況である。使用メモリは現状よりも増加するが、プライマリ基底用の高速多重極計算の併用により、カルデロン前処理による計算時間の短縮が望まれる。 また、複数の近似解を用いる残差切除法での複数の近似解選択の仕方に、改良の余地があり、|Ax|<<|x|を満たす近似解を収束阻害成分とみなして優先的に選択対象とするなど、収束性の改善策を模索したい。 大規模問題で収束性の良い条件を探索する(外挿で予想される最良の反復回数よりも必要回数が多ければ直ちに計算を終了し次の探索に移る)ことで、大規模計算が可能なケースをなるべく多く収集することにも努めたい。このようなデータの蓄積は、大規模計算結果の収集効率を高め、計算法の性能評価を容易にする。 一方、生体モデルの導入に対応するために、誘電体境界条件に対応したモーメント法コードに拡張を行う事や、空洞形状の変更も並行して検討を行いたいと考えている。
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