研究課題/領域番号 |
16K05049
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宮本 良之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター, チームリーダー (70500784)
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研究分担者 |
石川 善恵 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノ材料研究部門, 主任研究員 (20509129)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 時間依存密度汎関数理論 / 量子コヒーレンス / 超小型パルスレーザー / 電場増強効果 |
研究実績の概要 |
レーザー照射による余分なエネルギー蓄積を抑制するための2パルス波形を考案し、時間依存密度汎関数理論によるシミュレーションで、1つ目のレーザーパルスで上昇した内部エネルギーが2つ目の逆位相パルスで減少するか否かを検証した。異なる数のベンゼン環を有する分子(ベンゼン、ナフタレン、アントラセン)を調べた結果、照射パルス幅が10fs以下の場合には2つめのパルスで内部エネルギーをもとの電子的基底状態にまで減少させることができることが分かり、この時定数では分子内で電子が基底状態と励起状態の間を振動する量子コヒーレンスが維持されていると結論付けた。一方パルス幅が長くなると、アントラセンでは2個目のパルスは内部エネルギーをさらに上昇させるだけであり、大きなサイズの分子における量子コヒーレンスの時定数の短さを示唆する。以上の結果は、レーザー照射による内部エネルギーの上昇抑制のために逆位相の短い2パルス照射が有効であることを示唆している。この結果は現在論文投稿中である。 分担研究者にレーザー学会学術講演会にて調査研究をお願いした。我が国独自技術の超小型パルスレーザーは、現在までにサブナノ秒のパルスが実現しており、物質における高速現象観察のためのプローブとしての用途開発や、フェムト秒以下の短パルス化を視野に入れた開発計画があることを知った。 2D材料においては、その材料の光吸励起と非共鳴の波長でも、フェムト秒レーザー照射により材料付近においてレーザー電場の増強が起きることが、時間依存密度汎関数理論を用いた第一原理計算によるシミュレーションで分かった。電場増強は2D材料の分極効果によるもので、レーザー光源において固定の波長のものを用いた場合でもレーザー電場増大が起きるのであれば、材料ごとの波長の調整は不要で2D材料近傍における光誘起化学反応の高効率化が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画当初において、レーザー照射によるダイヤモンド中欠陥の修復、2D材料上のポリエチレンなどの有機分子のレーザー照射によるポリマー化等の光反応シミュレーションを計画したが、格子緩和がほとんど起きないダイヤモンド中における原子移動と、有機分子のポリマー化に要する時間定数が当初予測していた数百fsオーダーよりもはるかに長いこと、さらにレーザー照射によるエネルギー上昇が欠陥修復やポリマー化を阻害する要因となり、適切なレーザー波形のデザインが難しいことが分かってきた。 そこで、本年度は計画実現に必要なレーザー励起ダイナミクスに関する詳細な知識を蓄積するために以下の二つの短期テーマを設定しなおした。1つは、計算コードをさらに高速化しより長い時間定数の計算向けにすること、もう1つは、レーザー照射によるエネルギー蓄積を抑制するためのパルス波形をシミュレーションにより設計することである。 第一原理計算で用いる計算コードでは並列計算を行っているが、データ通信量の多い擬ポテンシャルの並列計算の箇所を、各プロセッサーに同じ計算をさせるようにコードを変更した方が全体の計算時間が20%向上することが分かった。 一方、レーザー照射による余分なエネルギー蓄積を抑制するために、レーザー照射を2つのパルスに分け2つ目のパルスの位相を1つ目のパルスの逆とするレーザー波形を考えた。時間依存密度汎関数理論によるシミュレーションで、このような2個のレーザーパルスを照射した場合、内部エネルギー上昇を抑制する効果のあることが示唆されたので、この知見をもとに、当初計画した研究内容(ポリマー化のシミュレーション)を遂行していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度に調べた内部エネルギーの余剰な蓄積を抑制するレーザー波形の知見をもとに、そのレーザー照射による有機分子のポリマー化などへの有効性の検証を継続して検討していく。いくつかの有機分子2量体を初期構造モデルと想定してシミュレーションを行う。 また、ポリマー化させる舞台として検討していた2D材料であるが予備的な研究において、材料の分極効果で2D材料の膜に垂直な方向の光電場の増強効果があることが分かった。さらに2D材料からチューブのような曲率を持った材料になれば電界集中の効果で光電場増強がもとの2倍以上の強度になることも分かった。これらの効果もポリマー化などの現象に応用できるか検討を重ねる。 最後に、レーザー技術動向調査を継続し、短パルス高出力レーザー開発の現状を分担研究者に調査してもらう。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた調査研究のための海外出張が、適切な国際会議と出張スケジュールのマッチングが合わず取りやめになった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度、海外出張による調査研究を行うとともに、昨年度以上の計算機利用を行いたいたい。
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