研究実績の概要 |
今年度は,前年度に引き続き量子トロイダル代数の構造論に関する研究を行った. 量子トロイダル代数は,近年理論物理学,特に素粒子論との関連から注目されている代数であるが ,半単純Lie代数やKac-Moody Lie代数の場合に用いられた既存の方法論がほとんど役に立たないため,これまで組織的な研究はほとんど行われていなかった.報告者はこの点に着目し,量子トロイダル代数の構造論をルート系の立場から組織的に研究した.得られた成果は次の通りである. (a) 一般のルート系に対する量子トロイダル代数:素粒子物理学において用いられる量子トロイダル代数は,A型と呼ばれるルート系に付随する量子トロイダル代数である.これを楕円ルート系の立場から見直し,一般の場合の定義を得た.特に,楕円ルート系に付随して定まる楕円ディンキン図形を用いることで,量子トロイダル代数の有限個の生成元と関係式による表示が可能であることを示した.このような仕事は地味ではあるが,基礎理論の 構築のためには欠かせないプロセスである. (b) 量子トロイダル代数へのブレイド群,モジュラー群の作用:トロイダルリー代数にはブレイド群,及びモジュラー群が作用しており,その構造論を展開するための重要な鍵になっている.特にモジュラー群の作用はKac-Moody代数には無かったトロイダル特有の現 象であり,今後の理論の進展において重要な役割を果たすと考えられる.本研究では,これらの群作用を量子トロイダル代数の場合に拡張することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子トロイダル代数に関する研究は,当初の研究計画においては研究の後半に可積分系への応用に関連して扱う予定であったが,前年度に予想外の研究の進展があり,本年度も引き続き量子トロイダル代数の基礎理論に関する研究を行うことにした. 得られた成果は『量子トロイダル代数の基礎理論の構築』という意味で満足のいくものであると自負しており,この点だけに着目するならば『当初の計画以上に進展している』と言って良いだろう.次年度以降は,直接的な可積分系への応用へも着手していく予定である.これらは,当初の研究計画の中にも織り込み済みの話題であり,当初案から逸脱しているとは考えていない. 他方,代数群や代数解析学への応用に関しては,いささか手薄になってしまった面は否めず,十分な成果が得られたとは言い難い状況である.とはいえ,本研究課題は4年間という期間をトータルして行うものであるので,多少の順序の変更はあっても良いものと考えている.その意味で,本研究課題は『おおむね順調に進展している』と判断する.
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