研究課題/領域番号 |
16K05064
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田口 雄一郎 東京工業大学, 理学院, 教授 (90231399)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ガロア表現 / Hecke 体 / モジュライ / 有限性 / Kummer-faithful |
研究実績の概要 |
昨年度中に先鞭をつけた、「highly Kummer-faithful」な体の arithmetic についての研究を、主に小関祥康氏と共同で、推し進めた。この概念は遠アーベル幾何学に現れる「Kummer-faithful」体のvariant であり、数論幾何学に於いて有用なものと思われる。昨年度から今年度にかけて得られた結果を論文の草稿として纏めた(もう少しで公表できる予定)。内容は主に highly Kummer-faithful な体の分岐理論的特徴付けであり、例えば k を有限次代数体とするとき、分岐が至る所有限である様な k のガロア拡大は highly Kummer-faithful である事が証明出来た。応用とし て、例えば k 上の半アーベル多様体 A と自然数 n を固定し、素数 p を動かすとき、A の p^n 等分点の座標を全て k に添加して得られる拡大体は highly Kummer-faithful である事が分かる。また、「highly Kummer-faithful」「Kummer-faithful」「sub-p-adic」という三つの概念の間の関係も明らかにした。 上の研究と同時に、「ガロア表現のゼータ」に関する著書の執筆を少しずつ進めた。この本には比較的初等的な事しか書けないが、ガロア表現についての成書(特に和書)は少ないので、完成すれば有意義なものとなるであろう。 黒川信重氏、田中秀和氏と共同で、「多重オイラー定数の p類似」について研究した。 結果は論文に纏めて、現在投稿中である。この論文では多重オイラー定数の p類似(p は素数)を定義し、その p→1 とした極限が通常の多重オイラー定数に一致する事を示した。これは前年度に出版した「オイラー定数の p類似と合同ゼータ関数」についての黒川氏との共著論文の続編である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度は、大学の教務委員長の仕事と数学会の雑誌‘数学’の編集委員長の業務で忙殺され、また、共同研究者の小関氏も多忙だったが、同僚や共同研究者達の協力を得て、少ない研究時間の割には順調な研究が出来た。しかし論文の投稿にまで漕ぎつけられなかったのは何といっても時間不足であった。 また、Kummer-faithful 体に関する研究は韓国 KAIST の Bo-Hae Im 教授にも興味を持ってもらう事が出来、彼女を二度招聘し、講演をして頂き、クムマー忠実体上の Mordell-Weil群について詳しく討論し、今後は共同研究を出来るかもしれないところまで話が進んだ事もよかった。 しかし函数体上の保型形式についての重要な国際研究集会 New developments in the theory of modular forms over function fields に多忙のため参加出来なかったのは返す返すも残念であった(そのためもあって研究経費が次年度に繰り越された)。 オイラー定数の p類似については、東工大名誉教授黒川信重氏がオイラーの原論文を読み解くなどして研究を主導して下さったお蔭で順調に研究が進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の推進過程に於いて、当初は想定していなかった「クムマー忠実体やそのガロア表現の研究」という新しいテーマが生じて来、これに関して予備的な結果を得る事が出来た。今後の2~3年間はこの方向にガロア表現の研究を推し進めるのが適切であると思われる。即ち、基礎体 K が「ほどほどに大きい無限次代数体」である場合に、K のガロア表現やそれに関連する様々な対象を研究する。有限次代数体については古来様々な有限性定理が知られているが、ここで言う「ほどほどに大きい」とは、(厳密な定義は無いが)その様な有限性定理の幾つかが成り立つ様な体であり、望月新一氏の定義した「クムマー忠実体」がその典型例であろうと期待している(クムマー忠実体は遠アーベル幾何学に於いて重要な概念である)。無限次代数体は、有限次代数体上定義された代数多様体のエタールコホモロジーや基本群の上のガロア表現から自然に生じるが、それらがクムマー忠実になる事は殆ど期待出来ない。本研究では、クムマー忠実体を始めとする「ほどほどに大きい無限次代数体」が、どこに、どれくらいあるのか?具体的にどの様に構成できるのか?を明かにする事を目的とする。これはガロア表現のモジュライ理論の応用の観点、及び遠アーベル幾何学の基礎となる体についての知見を豊富にするという観点の、双方にとって重要である。そのため、遠アーベル幾何学の専門家に協力を仰ぎながら研究を進める。 関連する重要な問題として、有限生成体の分離閉包の、有限個の自己同型による固定部分体の上の Mordell-Weil 群の構造を決定する問題がある。その起源は Frey-Jarden の予想に遡り、その後 Bo-Hae Im氏を始め多くの数学者が関連する結果を出している。我々の観点からは、この様な体がクムマー忠実であるかどうかを判定する事が重要であり、Im氏と共同でこの研究に当たる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)平成30年度には残額が生じたが、これは前年度・前々年度からの繰越があったためであり、それがあったのは、平成28年度は研究代表者が東京工業大学に異動して最初の年度だったため、東工大から新任研究者用の研究費を支給され、それを優先的に使用したためである。 (使用計画)第9回 East Asia Number Theory Conference が日本で開催されるのに合わせて、招聘旅費が多めに必要であるから、丁度よくなる予定である。
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