研究課題/領域番号 |
16K05065
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
成田 宏秋 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (70433315)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 実双曲空間 / リフティング / テータリフト / 実解析的カスプ形式 / 偶ユニモジュラー格子 |
研究実績の概要 |
研究期間初年度に得たと思われた、レベル1の複素上半平面上のMaassカスプ形式からのリフティングによる実双曲空間上の非正則実解析的カスプ形式の構成であるが、Maassの逆定理のアデール化によりリフティングの保型性を示すという当初のアイデアに議論のギャップがあることを夏頃の米国オクラホマでのAmeya Pitale氏との研究打合せで発見した。これにより当初は任意の正整数nに対して8n+1次元の実双曲空間上でリフティングで構成できたと思われた実解析的カスプ形式はn=1の場合でしかできていないことが分かった。その後も逆定理を使う方針で検証を重ねたが結局解決には至らなかった。 しかしその後11月のドイツのマックスプランク研究所における研究集会での発表後、ダルムシュタット工科大学のYingkun Li氏よりBorcherdsのテータリフトのフーリエ展開の理論を使えば保型性を一般のnの場合で証明できるのではというアイデアが提案され、検証した結果それでリフティングの保型性が一般の8n+1次元実双曲空間の場合で証明できることが分かった。このことを受け、研究成果報告のための論文執筆の共著者にこれまでのAmeya Pitale氏に加えてYingkun Li氏も共著者に加えることにした。これまでのテータリフティングによるカスプ形式の具体的構成は主に正則保型形式によるものが主であるが、これはリフティングを与えるテータ積分核の試験関数を調和多項式を使って与えるものである。しかし我々のテータリフトは非調和多項式を使ってテータ積分核を構成するもので既存の結果には殆どないものであり今回得た結果の独創性が主張できると考える。ちなみに8nというのは偶ユニモジュラー格子の階数から来ていることを注意する。われわれの結果はすべての偶ユニモジュラー格子に付随して実双曲空間上のカスプ形式を構成したとも説明できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の研究成果に議論のギャップを発見したことは遅れているという評価につなげざるを得ないであろう。しかし非調和多項式を用いるテータリフトを使うという新たなアイデアを得たという点では、進捗状況について評価できなくとも、大きな収穫があったとも言えると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上でも述べたようにテータリフトによる新しい方針が立ったのは積極的に評価できることであり、この方針による研究を強力に推進したいと考えている。しかしMaassの逆定理による方針も同時に考えたいと思っている。逆定理は保型形式が持つ保型性の本質に迫るものであり、保型形式論の軽視できない重要な側面を孕んでいると考えている。テータリフトによる研究はYingkun Li氏と共に進め、逆定理による研究は引き続いてAmeya Pitale氏と推進する方針である。
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