研究課題/領域番号 |
16K05069
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
古澤 昌秋 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (50294525)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 保型L函数 / L函数の特殊値 / テータ対応 |
研究実績の概要 |
森本和暉(神戸大学)とSO(2n+1)xSO(2)のspecial Bessel periodのRefined Gross-Prasad conjectureについての共同研究を引き続き行い,論文を完成し投稿した.この結果とDickson-Piatle-Saha-Schimidtによる結果を組み合わせることによって,次数2のジーゲル尖点形式でヘッケ固有形式であるものに関して,スカラー値保型形式の場合に,そのフーリエ係数についてのBoecherer予想を示すことができることは,上記投稿中の論文に示した通りである.これに関して,森本との共同研究として,ベクトル値への拡張について考察した.森本の計算によって,ベクトル値の場合にも,Boecherer予想の拡張が成立することがわかった.応用を考えると,この拡張は意味のある拡張であると思われる.ただし,我々の得たL函数の特殊値の公式について,2のべきについては,なるべき値との間にズレが存在すると思われる.このズレについては,原因を早急に突き止め,修正しなければならない.また,ジーゲル尖点形式について,我々の論文においては,その重さが3以上でなければならないという制約が,存在する.アーベル曲面の数論への応用などを考慮に入れると,これは重さが2の場合も含むように拡張されるべきであり,それについての考察も行い,1つのアイデアを得た.またBoecherer予想については,イデアル類群の指標が自明でない場合についても同様な公式が成立することがGross-Pradsad予想の見地から期待される.これについても,考察を行い,有力なアイデアを得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Boecherer予想のベクトル値の場合への一般化は,基本的に,既に公刊されている幾つかの論文の結果を組み合わせることによって得られる.しかし,これらの論文はそれぞれ相異なる視点から書かれており,記法,定義の違い,測度や定数のとり方の違いなどが多々あることから,複数の論文の結果を組み合わせることが非常に困難であった.また,これらの結果は理論的に正しいことは堅固であるが,我々の知り得る限りでは,数値計算例が殆ど存在せず,測度の違いなどから生じ得るミスプリントが本当に存在しないのかどうか,などがなかなか検証できないでいる.その結果として,我々の得たベクトル値の場合のL函数の中心特殊値の公式についても,実例が計算できず,2のべきについての確証を得ることがまだできていない. また,Boecherer予想のイデアル類群の指標が自明でない場合への拡張についてであるが,我々は基本的なアイデアの正しさについては極めて自信がある.しかし,それを実際に論文の形にまとめあげるためには,細かな計算についての様々な確認が必要であり,それらに予想以上に手間がかかっているために,論文の執筆が遅れている. 重さ2の場合へのBoecherer予想の拡張は,実際のところは本質的に実素点だけの問題である.我々は実リー群の専門家ではないがために,関連の計算に予想外に時間がかかってしまっている.
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今後の研究の推進方策 |
引き続きBoecherer予想の,ベクトル値の場合,指標が非自明な場合,重さ2の場合,への拡張に関する考察を行う.この3つの場合の中で,最も優先権を置くのは,指標が非自明な場合への拡張である.なぜならば他の二つの拡張は,大雑把に言って,極めて技術的な物に過ぎないが,非自明指標の場合への拡張には,本質的に新しいアイデアを必要とするからである.当面はこの研究に専念することによって,できるだけ早い時期に論文の形にまとめなければいけないと考えている. Boecherer予想の帰結として得られる,L函数の特殊値の公式は,楕円モジュラー形式の理論におけるWaldspurger公式と同様に,多様な応用を持つと期待される.ただちに考えられるのは,解析数論的な応用である.また,高階数の代数群の保型形式の数論が発達すれば,岩澤理論的な方面での応用も期待できるように思う.非自明指標の場合へのBoecherer予想の拡張を考察するのと併行して,Boecherer予想の帰結として得られるL函数の特殊値の公式を,上記のような応用に適した形にrefineすることも考察していきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は9月に大阪市立大学で開催された国際研究集会に本科学研究費補助金から2名程度の講演者を国外から招へいする心づもりであったが,他の資金によって招へいされることになり,本補助金を使用しないことになってしまった. 2018年度は,世界各地で本研究との関連の深い興味深い国際研究集会が開催されるので,これらに参加し,研究交流を深めることによって,本研究をさらに発展,深化させたい.
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