研究実績の概要 |
本研究は,実簡約型 Lie 群の標準 Whittaker (g,K)-加群の構造を解析することを主目的としている. 平成29年度には,前年度に引き続き,この加群の代数的な性質から得られる構造定理について研究を行った. Whittaker 模型の理論における重要な定理として,「(g,K)-加群 V に対し,その双対Whittakerベクトルの空間 Wh*(V) を取る操作は完全関手である」というものがある.無限小指標 Λ を固定したとき,この定理は「本研究の対象となっている標準 Whittaker (g,K)-加群は,無限小指標 Λ をもつ Harish-Chandra (g,K)-加群の圏における入射加群である」と言い換えられる.代数の一般論により,入射加群は既約部分加群の入射包絡の直和に分解する.この事実から標準 Whittaker (g,K)-加群の構造について多くの情報が得られることが研究の過程で判明した. この事実の応用の一つとして,前年度には,群 G が split 群で Λ が regular のとき,Λ と同じ Weyl chamber に含まれる無限小指標 Λ' への translation 関手による標準 Whittaker (g,K)-加群の像は,無限小指標 Λ' の標準 Whittaker (g,K)-加群に同型であることを示した. 二つ目の応用として,G が split 群のとき,標準 Whittaker (g,K)-加群の大域指標,即ち既約組成因子の情報,は,無限小指標 Λ を持つ主系列表現の大域指標の和であることを,平成29年度に示した.これにより,標準 Whittaker (g,K)-加群の組成因子問題が,split 群に関しては解決したことになる.
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今後の研究の推進方策 |
群が split な場合,標準 Whittaker (g,K)-加群には自己双対的な構造があるとの予想を肯定的に解決することが,本研究の主目的,つまり標準 Whittaker (g,K)-加群の構造決定に大きな役割を果たす.これを解決するためには,無限小指標 Λ を持つ標準 Whittaker (g,K)-加群と,無限小指標 -Λ を持つそれとの非退化な (g,K)-不変双一次形式を構成すればよい.これについてはまだ完全な形で構成できていないので,それを今後の研究の第一の主眼とする.そのためには,Whittaker 関数の境界値を考え,境界値が含まれる主系列表現の間の非退化 (g,K)-不変双一次形式を使うのがよいと考えている. 群が split ではない場合はより複雑であることが実階数1の具体例からわかっている.このときは Λ が generic なものから解析接続で得られる Whittaker 関数は必ずしも無限小指標を持たず,一般化無限小指標を持つ.そのため,一般化無限小指標について何らかの制約を付けて標準 Whittaker (g,K)-加群を拡張すれば,split なときと同様の自己双対的構造を持つのではないかと予想している.このように拡張した加群を経由して split でない場合の解析ができないか,方針を探ることも今後の研究の主題の一つとする.
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