研究期間を通じて,多変数保型形式の整数論的性質とくに多変数modular形式のtehta作用素を研究し,いくつかの新しい事実を発見した。報告者は,この当該研究の前研究において,この研究の発端となったtheta作用素を施すとmod pで消えるmodular形式を発見した。当初は,このような現象の発見は偶発的で,なぜこのようなmodular形式が存在するかが解明されなかった。この研究期間中の研究によって,さらにこの性質を満たすmodular形式が発見され,その存在理由が明らかにされた。具体的に述べると以下のようである。まず発端となった事実は所謂Igusaのcusp形式と呼ばれていた,2次のSiege cusp形式がtheta作用素を施すと,mod 23で消えるというものであったが,研究目標となったのは,1.一般の次数のSiegl modular形式でこのようなものは存在するか.2.素数23の解明する,ことであった。研究目標1については,ドイツ,Mannheim大学のBoecherer教授との共同研究により,theta級数を用いることにより,どのような次数nと素数pについて,そのようなmodular形式が存在するかが解明された。この成果はmanuscripta math.に掲載された。これに付随する研究成果として,unimodular格子に対するtheta級数が,ある素数pについてtheta作用素のmod p核となるいう結果が,報告者により発見された。これは,最初,Leech格子と呼ばれる特殊な,そして重要な格子に対するtheta級数がtheta作用素のmod 23核に入るという事実としてとらえられたが,報告者はこれをNiemeier格子という,Leech格子を含む,より広い範囲の格子のなかで調べ,成果を得た。これらの結果はフランス,Lille大学の国際会議で報告された。
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