研究課題/領域番号 |
16K05087
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
花村 昌樹 東北大学, 理学研究科, 教授 (60189587)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | Hodge構造 / 導来圏 / Deligneコホモロジー / Cauchy-Stokes 公式 |
研究実績の概要 |
種々のHodge複体の構成 複素数体上のコンパクトと限らないスムーズな代数多様体のコホモロジーの混合Hodge構造をもつが,それはある「混合Hodge複体」を構成することにより得られる(Deligne). 混合Hodge複体とは, 加群のフィルターつき複体の導来圏における三つ組である条件をみたすものである.さらにBeilinsonは「Hodge複体」の概念を与えた.混合Hodge複体とHodge複体の相違は,導来圏の対象と,複体そのものを与えることとの相違に似ている(後者の方が詳しい情報を持った対象である).Hodge複体の三角圏はDeligneコホモロジーの理論の圏論的な意味づけを与える.
スムーズな代数多様体 X に対し,Hodge複体 K'(X)が対応し,それは X の混合Hodge構造を計算する.この構成は抽象的な層の理論に基づいたものであり,関手性などの性質を満たしているが,積構造と両立しない. また実際の計算に適していない.
(1) Hodge複体の圏における, K'(X) と擬同型な対象 K(X)で,可換な内部積を持つ対象K(X)を構成した.K(X)の構成には,Thom-Whitney cochain構成と,可換な微分次数環のなす圏のモデル圏構造を用いる. (2) K'(X)と擬同型なHodge複体E(X)であって,次の二つの性質を満たすものを構成した. (a) E(X)は三つ組であるが,その``Betti-part" は,X 上の半代数的なチェインのなす複体である.(b) あらかじめ与えられたXのスムーズな因子 H について,E(X)からE(H)への制限写像が存在するようにできる. つまり因子について,反変的な関手性を満たす.構成には,半代数的なチェインについてのCauchy-Stokes formulaを用いる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)について.動機のひとつは,スムーズ代数多様体のDeligneコホモロジーを計算する,可換な微分次数環の構成である.先行研究として,可換な積を持たないHodge複体の構成はBeilinsonが行っており,またDeligneの意味の混合Hodge複体で可換な積をもつものの構成は Navarro-Aznarによりなされていた.これを踏まえると,Hodge複体への拡張を期待するのは自然なことである.しかし実際の構成の細部には可換な微分次数環のモデル圏構造の自明でない性質が必要であった.正しい定式化と,技術的な検証のために少し時間を要した.
(2)について. Cauchy-Stokes formulaの特別な場合はCauchy formulaと呼ばれる.これは古典的なCauchy留数定理の高次元版であり,混合TateモティーフのHodge実現の構成において用いられていたが,それが用いられる本質的な意味ははっきりしなかった(この場合は,Xとしてアフィン空間のみが現れる).Cauchy formula をCauchy-Stokes formula に一般化し,それを取り込んだ形でHodge複体E(X)を導入し考察することで,Cauchy formula の現れる意味が明確になったと言える.Cauchy-Stokes formulaも,得られてみると自然に見えるが,Cauchy formulaとその証明という段階を踏む必要があった.
|
今後の研究の推進方策 |
1. (1) Q上の次数つき微分代数 A に付随したテンソル三角圏 DT(A)の研究をおこなう.これまでの1年の予備的研究において,DT(A)のAに関する関手性を考察するにはAを微分代数より一般に, A-infinity 代数と仮定する方が自然であることがわかっている. また,Aのバー構成B(A)の圏論的意味を明確にする研究もおこなう. (2) 微分代数 AとしてDeligne代数(代数的cubeのDelingeコホモロジーを計算する複体)をとり,DT(A)と混合Tate Hoge構造の三角圏が同値であることを示す. (3) 混合Tate型のDG三角圏が,ある次数つき微分代数 A が存在して,DT(A)の形の圏と同値であることを証明する. (4) 微分代数 Aのコホモロジーがある「消滅条件」をみたすとき,DT(A)は自然なt-構造をもつが,このt-構造の研究をおこなう.なお,このt-構造のheart MT(A)と,Aのバー構成の関係はすでに研究結果を以前に得ている.
2. 代数多様体の圏上の次数つき微分代数 A に付随した三角圏の一般論を,上記の各項目を一般化する形で構築する.このような圏の構成の一例として,混合モティーフの圏が得られることは以前に確立している.
|
次年度使用額が生じた理由 |
外国出張の予定があったが,大学における職務のためそれが実行できなかった.
今年度は外国から研究者を2回ほど招き,共同研究をおこなう.
|