研究実績の概要 |
複素数体上のコンパクトと限らないsmoothな代数多様体に対し,その混合Hodge構造を与える対象として,Deligneは混合Hodge複体の概念を与え,さらにBeilinsonはそれをチェインレベルで考察し,Hodge複体の概念を与えた(後者の方が詳しい情報を持った対象である).両者の違いは,導来圏の対象を与えることと,複体を与えることとの相違に似ている. Hodge複体は, Q上のベクトル空間の複体, C上のベクトル空間の複体, およびそれらの間の擬同型からなる.Beilinsonによると,smoothな代数多様体Xに対し,Hodge複体K(X)が対応し,それはXの混合Hodge構造を計算する.この構成は抽象的な層の理論に基づいたものであり,関手性などの性質を満たしているが,実際に用いるのには都合が悪い場合がある. 本課題研究においては,より明示的なHodge複体を構成した.すなわち,smoothな代数多様体Xと正規交叉因子Hに対してHodge複体E(X, H)であって,次の二つの性質を満たすものが構成できる.(a) E(X, H)の「Q-部分」は,X上の位相的なチェインのなす複体であり,(b) E(X, H)の「C-部分」は,Hに対数的極を持つX上の微分形式の複体を用いて記述される. なお,Xがコンパクトの場合,あるいはHが空の場合は,E(X, H)の構成に困難はない.一般の場合のE(X, H)の構成には,(Cauchyの積分公式を高次元のチェインに拡張した)Cauchy-Stokes formulaが取り込まれている.この研究により,混合TateモティーフのHodge実現の構成におけるCauchy公式の意味が明確になった.
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