研究実績の概要 |
本研究の研究対象の一つは,正標数の特異点または射影多様体が,局所的または大域的な有限F表現型(finite F-representation type,以下FFRTと略記)をもつ条件に関する考察である.本年度は,正標数 p の体上の次数環のFFRT性に関連して,次の二つの研究を行なった. 1. 前年度に引き続き,2次元正規次数環のFFRT性について,大川領氏(早大理工)と共同で研究し,共著論文 "The FFRT property of two-dimensional normal graded rings and orbifold curves"(投稿中)を執筆した. 2. 3次元の正規次数環のうち,FFRT をもつことが期待されているもののその証明が得られていない例として,5次del Pezzo曲面 X の反標準環 R=R(X,-K_X) が考えられる.反標準環 R の FFRT 性は,反標準束 L=-K_X のテンソル冪の累次フロベニウス直像 (F^e)_*(L^i),ただし,e=0,1,2,... は非負整数,i は 0≦i≦(p^e)-1 なる整数,の直既約ベクトル束への直和分解を調べることにより判定できる.先行研究において,i=0(p, e は任意)の場合は解決しているが,それ以外の場合は未解決であるため,p^e=3,4,5; i=1,2 などの場合に具体例の計算を行ない,これに基づいて,p が奇素数,i=(p^e-1)/2 の場合に次の予想を立てた: 予想. 上の状況で,q=p^e(奇数), i=(q-1)/2 とおく.このとき,(F^e)_*(L^i) は階数 (5q^2+3)/8 の自由層と,ある階数 3, c_1=0 の直既約ベクトル束 (q^2-1)/8 個の直和に分解する. この予想を,(q,i)=(3,1), (5,2)の場合に検証した.
|