当研究はマンフォード‐テイト領域の部分コンパクト化を、log 幾何を用い、代数群の作用付き対数ホッジ構造のモジュライ空間として構成することを目指すものであった。2021 年度は、今までに得られた成果を 120 頁超の論文にまとめ、専門誌に投稿することができた。 この論文の目次は以下の通りである。1. 代数群の作用付きホッジ構造のモジュライ空間の定式化。2. Borel-Serre 軌道による部分コンパクト化の構成。3. SL(2) 軌道による部分コンパクト化の構成。4. 冪零軌道による部分コンパクト化の構成。 また、応用として、ゴレスキーとタイによる、トロイダルコンパクト化と Borel-Serre コンパクト化との関係付けを、上記3つのコンパクト化を含む基本図式の枠組みで簡潔に解釈できることを見出し、別の論文にまとめ、専門誌に投稿した。この結果の特長は次の通りである。トロイダルコンパクト化と Borel-Serre コンパクト化という、性質の違うコンパクト化を結び付けるために、ゴレスキーとタイは前者を、ある細分した扇に対応するものに置き換えている。ところが当研究で確立された基本図式を用いれば、扇を細分しなくても、前者を標準的な対象であるところの比の空間に置き換えることで CKS 写像を用いて同等のことが達成できる。CKS 写像の自然な定義域として導入された比の空間がこのように幾何的な応用を持ったことは、今後この分野で比の空間が重要になって来るであろうことを示唆している。 また、上の応用において、比の空間に置き換えることができる点を証明するために、log Betti コホモロジーについての各種の底変換定理を非可換係数の場合も含めて統一的に整理する必要が生じ、その主題での論文をまとめ、専門誌に投稿し、数度の改訂を経て、受理された。
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