研究課題/領域番号 |
16K05104
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
足利 正 東北学院大学, 工学部, 教授 (90125203)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 退化 / リーマン面 / 倉西空間 / タイヒミューラー空間 / 連分数 / 特異点 / モジュライ空間 / 写像空間 |
研究実績の概要 |
代数曲線の退化族の研究を中心に以下のような進展があった。 (1)代数曲線の退化族の位相構造を指定した上で, その上にどれだけの解析構造が許容されるかという問題に関し, 前年度からの研究を継続し一定程度の成果を得た。その内容を松本幸夫氏に詳しく話したところ, これはモジュライ点を固定した上での議論であり, それを変動させつつ本来あるべき「普遍退化族」を構築すべきであろうとの示唆を受けた。この点について氏と議論を重ねるうちに, そのことに関しても自然な方向性が見えてきて我々の共同研究が立ち上がった。現在それを続行中であるが, 例えばタイヒミューラー構造の極限に関しての詳細な解析を用いるなど, 少し大掛かりなものになりつつある。当該分野の記念碑的結果となるべく努力している最中である。 (2) 非超楕円的種数3の退化族のファイバー芽のHorikawa指数の決定問題に関しては, 前年度までの研究ですべてのファイバー芽の分類項目に関して, いささか膨大な計算が完了している。その後全体をまとめる際, 逆の存在証明を一般の立場で言おうとして上記(1)の研究に入ったのだが, そのまま深みに入りまだこれに立ち返れないでいる。 (3) 高次元連分数とDedekind和に関する研究については, Kyoto J. Math.にacceptされた論文「Multi-dimensional continued fractions for cyclic quotient singularities and Dedekind sums」の完了後はまだ目立った進展はないものの, ここで開拓した方法の特異点論や整数論への応用について, 若干の専門家の方々とも議論を重ねつつ有効な方向性を探っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績欄の項目 (1), (2), (3) に沿って述べたい。 (1)前年度までの研究により, 中心ファイバーの安定還元となる群作用付き安定曲線の倉西空間をターゲット空間とし, 単位円盤からのある種の擬周期性を持つ正則写像が, 退化族のモジュライ写像を特徴付けることがわかる。ただ同じ群作用を持つ安定曲線がモジュライ空間の中でlocus をなす場合はこれだけでは不十分であり, 写像のターゲット空間としてもっと大域的な空間が必要である。それに相応しいと考えられるのが, 松本幸夫氏が最近提唱している controlled deformation space と呼ばれる空間である。この空間は代数幾何的にはある条件を満たす倉西空間の貼りあわによる再構成が可能であり, これが先の方法と繋がる根拠である。ただし松本氏の方法は双曲距離や Weil-Petersen計量及びその極限行動を用いるため、代数幾何的方法との整合性を綿密に考察する必要がある。これらについて, 氏との共同研究の中で議論を続けている。 (2)については, 本年度はあらためて述べるべき点は特にない。 (3)我々の高次元連分数の応用として, ある種の商特異点のクレパンド解消の存在について佐藤宏平氏が定期的に議論に訪れるようになり, それを側面からサポートしている。また島田勉氏が代数体への高次元連分数の応用について私と議論をするようになり,これも側面からサポートしている。
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今後の研究の推進方策 |
実績欄の項目 (1), (2), (3) に沿って述べたい。 (1)Augmented Teichmuller 空間のストラタの写像類群のある部分群による商空間に複素構造を入れる Hubbard-Koch の議論は, ストラタの余次元が上がる内部境界付近の記述に若干の不透明さがあると思われる。松本氏はこの点を指摘し, 且Fenchel-Nielsen 座標系の測地線の双曲的長さに対応する各座標のデリケートな統制により, それを補う controlled deformation space を構成した。一方Looijenga 及び Arbarello-Cornalba-Griffiths の思想から, この空間は原理的には安定曲線の倉西空間の貼り合わせから得られると思われる。ただし双曲幾何的議論との整合性をきちんと示す必要があり, 議論を続けている。完成すれば円盤からこの空間への正則写像全体の中のある性質を持つ部分空間が、リーマン面の退化族の解析構造全体を統制する分類空間であると言えることになる。 (2) (1)の完成を待って執筆を再開したい。約2年前に書いた未発表の「Horikawa index of genus three via signature divisor, I」はモジュライ点がDeligne-Mumford コンパクトの余次元1ストラタに入る場合のみを扱って約50ページある。ここから計算が完了している全ての場合(余次元6まである)を補完すると, かなりの大部になると予想されるものの, 何とか完成に漕ぎ着けたい。 (3)我々の高次元連分数は, 岡睦雄氏の細分法を半ユニモジュラー錐に対してのみ実行したものの翻訳から生じたものであるが, 岡細分はもっと一般の状況に対して成立している。最近, ある応用上の必要性からこの一般化の有用性を感じているので, 少し取り組んでみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度8月に開催予定の研究集会「Algenraic surfaces and related topics」の外国人招待講演者の旅費に使用するため対応する前年度分をストックしたため。
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