カラビ・ヤウ多様体のミラー対称性は、その発見から20年以上が経過しているが、未だに全貌が明らかにされていない。一方でこれまでに多くの研究が積み重ねられて、ミラー対称性を導来圏に見られる対称性として研究する手法と、カラビ・ヤウ多様体の族を考え、その族が退化する点の近傍に現れる幾何学を手がかりに研究する手法、2つの手法が確立している。本研究では、多様体の族に付随する周期積分に着目して、2つの手法を横断的に関連させることを目標とした。主要な成果として、いくつかの興味深いカラビ・ヤウ多様体の族が見つかり、それらの族のパラメーター空間を大局的に解析することによって、大局的なモノドロミー性質と双有理幾何学との関係(モノドロミーべき零錐と可動錐の関係)を見つけることが出来た。この結果は、パラメーターの空間上で定義される多変数微分方程式の大局的な解析を伴う技術的な手法の整備によって可能となった。本研究ではこの手法を、2次元カラビ・ヤウ多様体であるK3曲面の族に応用することも行った。その結果、2次元射影空間の二重被覆として得られるK3曲面の周期積分について、その大局的で完全な記述を与えることが出来た。結果として、K3ラムダ関数と名付ける、IV型対称領域上のモジュラ―関数に具体的表示を与えることが出来た。
最終年度にあたって、国外研究者を招聘して以上の研究成果に関して討論を行い、さらなる発展に向けた手がかりを得ることを計画したが、長引くコロナ禍のために断念することとなった。その代わりに、オンラインでの研究集会において研究発表を行った。また、オンラインでの研究集会を主催者として企画して、何人かの研究者に講演を依頼して関連する分野への知識を広めると共に、本研究の研究成果の発表も行った。
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