研究実績の概要 |
コンパクトかつ適切なケーラー条件をみたすセミステイブルな対数的スムース退化 X ---> * について、その相対対数的ドラーム複体と擬同型なコホモロジカル混合ホッジ複体(A,L,F)が、本研究の最も重要な研究対象である。 平成29年度当初は、平成28年度に得られた等式L=W(N)の証明のミスを再検討する過程で、L=W(N)のヴァリアントである等式L(I)=W(N_I)を証明することに成功した。ここでは、El Zein のフィルター付き混合ホッジ複体の理論を巧妙に適用して、ウェイト・スペクトル系列のE_2退化を示すことが証明の鍵である。これにレフシェッツ加群の議論を組合せることにより、L(I)=W(N_I)を得る。 次に相対対数的ドラームコホモロジー群上の偏極について研究を進めた。単体的な対象(K,W,F)およびその上の積・トレース射を構成し、さらにAとKを結び付る擬同型A ---> Kを用いて(A,L,F)が定めるコホモロジー群上の偏極を得るという当初の方針は、計算が極めて複雑で実行不可能であることが判明した。そこで、(A,L,F)上に直接偏極を定義することを試み、現在この新しい方針について、ほぼ見通しを立てることに成功した。ここでは、(K,W,F)を単体的な対数的ド・ラーム複体(Omega, W, F)におきかえることが鍵となる。この(Omega, W, F)上では、積やトレース射の計算は簡略化され、また射A ---> Omegaの構成もより簡明になる。(K,W,F)とは異なり、射A ---> Omega は擬同型にはなり得ないが、(A,L,F)から得られる混合ホッジ構造に偏極を定めるだけの十分に良い性質を持っていることが判明しつつある。現在、細部の議論を詳細に検討している。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」にも記した様に、予期していなかった重要な成果を得ることに成功した反面、当初の計画からは多少の遅れが生じている。今年度が最終年度であることにも鑑み、できる限り研究のスピードアップを図り、当初の目標を達成することを目指したい。 射影的なセミステイブル対数的スムース退化の相対対数的ドラームコホモロジー群上に、混合ホッジ構造としての自然な偏極を構成することを、平成30年度の最初の目標とする。上述したように、当初想定していた手法での実行が困難であることが判明したが、平成29年度中に新しい方法を見出し、既にその方針でかなり見通しが得られた状況にある。平成30年度はこの方針を継続し、さらに細部まで詳細に検討を加えることにより偏極の構成を完成させたい。さらに平成29年度に得られた等式L(I)=W(N_I)とも関連して、この偏極とフィルトレーションL(I)との関係について考察することも興味ある研究課題である。これは、(A,L,F)から定まるウェイト・スペクトル系列のE_1項が持つ自然な多重レフシェッツ加群の構造が、E_2項に降下するかどうか、という問題だと解釈できる。多重レフシェッツ加群の理論が予想以上に難しいものであることが、平成29年度の本研究の過程で判明したが、平成29年度に行った思考過程をより詳細に検討し直すことから新しい突破口を見出したいと考えている。 多重レフシェッツ加群の理論を構築することは、当初の研究目標の一つである「局所不変サイクル定理」の一般化にも重要な手掛りを与えるものと考えている。さらに、等式L=W(N)あるいはそのヴァリアントであるL(I)=W(N_I)および自然な偏極という、本研究で得られた(得られると期待される)研究成果を総合し、「局所不変サイクル定理」の一般化という次の研究目標に挑む予定である。
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