研究課題は正標数の体上定義された代数多様体と特異点に関して、代数幾何学的、特異点論的、表現論的、数論的、複素解析幾何学的なさまざまな視点から研究を行うとともに、応用代数学など周辺分野を取り入れた複眼的視野からの研究により、大きく3つの目的を定めた。2023年度に進展のあった2項目について実績概要を述べる。 (1) 特異点論における正標数特有の病理現象の解明、及びそれらを含む一般論の構築について、有理二重点に代表される種々の特異点について継続的に研究を行っている。今年度は等特異軌跡に関して、標数が2の場合のみ独立した結果である1次元単純特異点の等特異軌跡についての計算を取りまとめ執筆中の論文に加筆している状況である。また、病理現象のひとつであるtautではない有理二重点の存在に大きな役割を果たしている無限小群スキームによる商と有限群商との間の変形による繋がりについて、年度末に大きな進展を得た。位数が標数と同じ群を有限群スキームの枠組みで捉え、それを長さが標数に等しくなる加法的群スキーム作用へいつ持ち上がるか、また、そのための準備として加法的群スキームから決まる導分の形の決定について、現在進行中であるが新たな知見を得た。これに関しては、本研究課題が2022年度で終了することから継続課題へ受け継ぎ論文として取りまとめる予定である。 (2) K3曲面やCalabi-Yau多様体に関する諸問題の解決とそのモジュライ空間の構造解明であるが、超特異K3曲面にていぎされる楕円および準楕円ファイブレーション構造の記述について、研究協力者である齋藤氏とともに、特定のファイバーを持つ場合の断面の格子的性質を解明し現在論文を執筆中である。この格子的性質の解明はK3曲面のモジュライ空間の構造にも関連しており今後の発展が期待されるとともに、より一般の楕円および準楕円曲面への進展も期待できると考えている。
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