研究課題/領域番号 |
16K05111
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
中島 徹 日本女子大学, 理学部, 教授 (20244410)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 代数幾何符号 / 安定ベクトル束 / Seshadri定数 / 公開鍵暗号 |
研究実績の概要 |
当研究の目的は、代数曲線上のベクトル束を用いた代数幾何符号であるSavin符号を一般化した一般Savin符号の性質を明らかにすることである。平成30年度に於いては、以下の様な成果を得た。 第一の成果は、高次元Savin符号とベクトル束のSeshadri定数との関係を明らかにしたことである。Seshadri定数とは高次元代数多様体の直線束の一点の周りでの正値性を測る尺度であるが、近年ベクトル束にまでSeshadri定数の概念が拡張された。我々は、有限体上でのベクトル束のSeshadri定数を用いることによって、高次元Savin符号の最小距離の下からの評価式を得ることに成功した。この結果は直線束の場合にS.Hansenが得ていた結果をベクトル束の場合にまで一般化するものである。 第二の成果は、任意の3次元代数多様体上の安定層の3次チャーン数に対し、Bogomolov-Gieseker型の不等式を得たことである。この結果は前年度の研究に於いて3次元Calabi-Yau多様体上の安定層に対して得た結果を一般化するものであるが、証明の方法は前年度とは異なり、A.Langerの安定層の因子への制限定理とH.Sunのコホモロジーの消滅定理を利用した。この結果により、安定なベクトル束が存在するための必要条件が明らかにできたため、一般Savin符号の存在に関する結果が導かれることが予想される。 第三の成果は、Savin符号の暗号理論への応用を見出したことである。より具体的には、代数曲線上のベクトル束を用いたSavin符号からMcEliece型の公開鍵暗号を構成し、その暗号化と復号のアルゴリズムを与えることが出来た。この様なタイプの暗号の安全性の検証は今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の研究に於いては3次元Calabi-Yau多様体上の安定層に対してBogomolov-Gieseker型の不等式を得ていたが、異なる手法を用いることによって今年度はこの結果を任意の3次元射影多様体の場合にまで拡張することが出来た。この結果から一般Savin符号が存在するための必要条件が導かれたことは大きな進展であった。また、Seshadri定数を用いてSavin符号の最小距離の評価式を与える新しい方法を見出したことは重要な成果であり、今後更にこの手法を発展させて評価式を改善したい。一般Savin符号を用いた公開鍵暗号の構成は当研究の開始当初は予想していなかった新しい展開であるが、従来用いられてきた楕円曲線以外にベクトル束の幾何学を用いた興味深い応用分野であると考えられる。 以上の理由により、当研究はおおむね順調に推移していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は当研究の最後の年度であるため、以下の様な方針で研究を推進したい。 第一に、一般Savin符号とSeshadri定数との関係について更に研究を行いたい。具体的には、ベクトル束のp-安定性に関する適当な仮定のもとで最小距離の下からの評価式を求めたい。第二に、一般のn次元の射影多様体上の安定ベクトル束のn次チャーン数に対するBogomolov-Gieseker型の不等式を証明したい。そのためにA.Langerの制限定理を用いて数学的帰納法によって3次元の場合にまで帰着して証明を行う予定である。最後に、高次元の一般Savin符号の公開鍵暗号の構成に応用についても研究を進めることを計画している。曲線上のSavin符号はインターリービングされたGoppa符号の一般化であるため、高次元の一般Savin符号を用いることによって従来より鍵長の短い暗号が構成できるかどうか検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 平成30年度に於いて当初計画していたICM2018への出席を大学業務の都合上取り止めにしたため、旅費に使用予定の研究費を次年度に繰り越す必要が生じた。 (使用計画) 令和元年度では、繰り越した額は、京都大学でのArakelov幾何学の研究集会、九州大学での暗号理論の研究集会などの国内出張の旅費に充当する予定である。また、繰り越し分以外の予算については、符号・暗号関連の書籍や計算機およびSSD等のメモリー購入、研究に必要なwi-fi環境の整備のために使用する予定である。
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