研究実績の概要 |
当研究の目的は, 代数曲線上のベクトル束を用いた代数幾何符号であるSavin符号を一般化した一般Savin符号の性質を解明することであった. 最終年度である令和元年度においては以下の様な成果を得た. 第一の成果は, 前年度の研究で証明した3次元射影多様体上の半安定層のチャーン類に対するBogomolov-Gieseker型不等式を一般次元にまで拡張したことである. 特に4次元射影多様体上の半安定反射層に対して上からの明示的な評価式を得ることができた. この結果は標数が0の閉体上で得られたが, 類似の不等式を有限体の場合に示せれば一般Savin符号の次元や最小距離などのパラメーターの評価式を導くことができるのではないかと期待している. 第二に, 安定層の存在問題に関して新しい結果を得た. 前年度までの研究で用いた階数2の安定反射層を層の拡大によって構成する方法を応用し, Calabi-Yau多様体以外の3次元多様体や射影多様体の1点でのブローアップ上に安定層を構成する方法を開発した. 第三の成果は, 最近Chen-森脇によって導入されたadelic曲線の理論と一般Savin符号の関係を見出したことである. 射影多様体と豊富因子の組(X,H)の関数体には, 各因子DにHとの交点数を対応させることによって自然にadelic曲線の構造が入り, X上のtorsion-free層Eの生成ファイバーはadelicベクトル束となる. EのDへの制限写像から定まる一般Savin符号をadelic幾何学の観点から解釈することによって, 一般にadelicベクトル束から得られる新しい型の代数幾何符号(adelic符号)が定義できることが分かった. これにより, 以前に中島によって導入されたArakelov符号と他の代数幾何符号を統一する理論の構築に向けての展望が開けたことになる.
|