研究実績の概要 |
本研究課題の中核は, アファイン有向マトロイド M に付随する単項式イデアアルと M の有界複体の関係である。2015年秋に申請書を書いた時点で, 単項式イデアルが Cohen-Macaulay ならば,有界複体は可縮なホモロジー多様体であることが(ほぼ)証明できており,さらに「この状況下で,有界複体は球と同相である」と予想し,目標として設定した。これら2015年度以前に得られていた結果を, 2016年度前半に論文に纏め直したが,その過程で進展が有り,3次元以下なら上記予想が証明できた他,4次元でも位相多様体であることまでは示された。当該論文は,現在投稿中である。 投稿後も, 多少の進展は有り, 組合せ論的可換代数における Alexander 双対性と一様有向マトロイドの双対性の関係について,使えそうな補題が得られている。ただし,単独での発表に足るものではなく,さらなる進展を模索中である。なお,ここまでは全て,岡崎亮太氏(福岡教育大学)との共同研究である。 一方,課題の中核に, 側面から光を当てるものとして, 凸多面体に付随した可換環(Ehrhart環)の Hilbert関数や極小自由分解の研究も行ったが,こちらには大きな進展が有った。具体的には, 東谷章弘氏(京都産業大学)との共同で,Hilbert 級数の分子が2次式で, かつ non-level なものの構造を特定した。こちらは既に論文にまとめ,学術雑誌からの出版が決定している。 また, 東海大学名誉教授の渡辺純三氏との共同で,ある種の部分空間配置に付随するイデアル(アファイン有向マトロイドに付随するイデアルの類縁ではあるが, こちらは単項式イデアルではない)の極小自由分解の研究にも着手している。
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今後の研究の推進方策 |
副次的な題材については極めて好調であり, 現在の勢いを失わないよう,引き続き注力したい。一方,課題の中核はあくまでアファイン有向マトロイドであり,バランスを取りながら研究を進めることが重要かと思われる。アファイン有向マトロイドに関して現在のこう着状態を打破する方向性として,以下が考えられる。 (1) 3次元以下では予想が成立することは分かっており,4次元でもかなり追い詰めているので,低次元トポロジーの基礎知識を学び(あるいは,専門家の助力を得て),まずは4次元の場合の証明を目指す。 (2) 上述の通り,一様有向マトロイドについては,道具が揃いつつあるので,この場合から証明することを目指す。 いずれにせよ, 副次的なテーマに関しては十分な結果が得られているので,有向マトロイドについては,研究期間の残り2年間でじっくり取り組みたい。
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