研究実績の概要 |
本研究の目的は, 相対 de Rham, 相対 Dolbeault, 相対 Bott-Chern 等のコホモロジーを用いて, 主として複素解析幾何学に現れる特性類の局所化を調べ, さらにそれぞれの場合に局所双対性によって得られる留数を明示的に求めることである. 平成 30 年度はこの方法の応用として次の課題につき実績をあげた. 1. 関数の概念を自然に拡張するものとして佐藤超関数がある. これは微分方程式論等で極めて強力なものばかりでなく, 代数解析学の端緒となったものである. これは局所コホモロジーを用いて定義され, 実際に用いるには具体的に表す必要がある. 本研究代表者諏訪は相対 Dolbeault コホモロジー類を用いると簡明に表示出来ることを見出した. これに関する一昨年度からの継続研究で, 超関数の基本的演算の他, 実解析関数の超関数の空間への埋込, その一般化である境界値射等の具体的表示を与えた. さらに今までの方法では困難であった L. Schwartz の分布 (distributions) の超関数としての明示的表現を与えた. 2. 上記のような相対コホモロジーによる表現理論の一般化として, 層係数相対コホモロジーの軟層分解による表現理論を展開し, 導来関手の理論との関係も明らかにした. さらにこれを層の射のコホモロジーの軟層分解による表現理論に拡張した. これはマイクロ関数の明示に有用であると思われる. 3. 相対 de Rham コホモロジーにおける Thom 類, 相対 Dolbeault コホモロジーにおける複素解析的 Thom 類の応用として, 複素多様体の Hodge 構造の blowing up による挙動について明示的結果を得た. 4. 特異多様体の交叉ホモロジーに対してもその相対版を考え, 上記のような局所化理論を展開する準備を始めた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究代表者が推し進める特性類の局所化理論が発展し, さまざまな方面での応用が見出されている. 特に当初予期されなかったこととして, 佐藤超関数およびそれに関連した演算, 局所双対性等が相対 Dolbeualt コホモロジー理論を用いると極めて簡単で明示的に表せることが分かり, 超関数理論の新たな展開をみている. これにおいても, 以前より多方面で有効に用いられていた相対 de Rham コホモロジーでの Thom 類が重要な役割を果たす.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究を継続し, その発展としてつぎのような課題につき研究を行う. 1. 相対 Dolbeault コホモロジーによる超関数, マイクロ関数の表示を用いてこれら関数の理解をさらに深め, さらなる応用を求める. 2. 相対 Dolbeault コホモロジー論における局所双対性につきさらに探求し, 例えば複素解析的 Lefschetz 不動点定理の簡明な証明および拡張を試みる. 3. 相対 Bott-Chern コホモロジー論においても, ベクトル束の切断による Bott-Chern 類の局所化理論を展開する. 特に Thom 類を定め, Riemann-Roch 定理等への応用を図る. 4. 特異多様体の交叉ホモロジーに対してもその相対版を考えて局所化理論を展開し, 微分形式による表現も用いて局所不変量を明示的に求める.
|