研究課題/領域番号 |
16K05117
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 淳也 東北大学, 情報科学研究科, 助教 (10361156)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ホッジ・ラプラシアン / 固有値 / 微分形式 / リーマン多様体の崩壊 / 球面 / 非負断面曲率 |
研究実績の概要 |
本年度は,Hodge-Laplacian の p-form の小さい固有値の存在に関する研究を Collete Ann'e 氏(フランス,ナント大学)と共同で行った.ここで,小さい固有値とは,Riemann 計量の族に対して,Hodge-Laplacian の p-form の固有値が 0 に収束するような固有値のことである.しかるべき条件の下では,小さい固有値の存在と多様体のトポロジーの間に関係があることが分かっているが,その全容は不明である. その解明のため,まず,球面の場合について研究を行った.具体的には,m次元球面上に,与えられた次数 p (1 ≦ p ≦ m-1) と任意の番号 k に対し,Hodge-Laplacian の p-form の第 k 固有値が 0 に収束するような,非負の断面曲率で体積一定の Riemann 計量の族を構成することが出来た. 従来の研究では,曲率を制限した場合の結果は無く,今回の我々の構成により「非負の断面曲率」に制限しても出来ることが,新たな成果である.また,非負の断面曲率の制約はかなり強い制約であるため,我々の構成した Riemann 計量の族は幾何学的に有益であり,今後様々な応用が考えられる. さらに,任意のm次元閉多様体の場合に対しても,上述の性質を満たすような Riemann 計量の族を構成した.ただし,この場合の構成は,m次元球面の結果をm次元多様体に貼り付けて行うため,もはや非負の断面曲率という制限は崩れてしまう.しかし,ここで用いた貼り付けの議論は,以前我々が行った連結和の崩壊の研究で得られた結果を用いているので,一つの応用例でもある. また,本年度は研究者の招聘や研究集会への出張の機会を増やし,新たな知見やアイデアを取り入れるために積極的に活動した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の前半は,昨年度の続きでファイバーが一様に潰れない場合の Riemannian submersion の族における Hodge-Laplacian の固有形式の解析を行った.昨年とは異なる新たなアプローチを試みたが,その解析は非常に複雑で困難を極めた.そのため,思うような進展が得られなかった. そこで,途中から以前行った Hodge-Laplacian の小さい固有値の研究の別の方向での発展を試みた.それが研究実績の概要で述べた,球面における非負の断面曲率と体積一定の制限の下での,小さい固有値の存在に関する結果である. 出来れば,これらの成果を論文にまとめ投稿する所まで辿り着きたかったが,主な研究成果が得られたことと,今後の研究方針も見えたため,「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,まず本年度得られた研究成果をまとめ,論文として投稿することが最初の目標である. 次に,本年度得られた結果を発展させることである.具体的には,断面曲率の下への有界性に加えて,直径が有界な場合の Riemann 計量の族に対して,Hodge-Laplacian の p-form の小さい固有値の存在を調べることである. この状況では,関数の Laplacian の固有値は 0 に収束しないため,p-form の固有値特有の性質を調べるのに,幾何学的に重要な設定である. さらに,小さい固有値だけでなく,他の固有値と固有形式の極限が解析できるような,新しい具体例についても考察したい.その結果,より一般の場合への解決の手掛かりが掴めると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の後半に予定していた出張が,日程的な都合等と新型コロナウイルスの影響のため,中止せざるを得なくなった.そのため,当初の予定より出張旅費が多く残る結果となった. 本年度に予定していた出張旅費の未使用額は,次年度の請求額と合わせて使用する予定である.しかし,当面新型コロナウイルスの影響で出張や対面の研究議論が出来ないことが予想される.そのため,オンラインでの議論を有効活用できるように,IT機器の整備の費用として使用する予定である.
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