研究課題/領域番号 |
16K05125
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 祐二 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 研究員 (00647993)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | (対称)完全障害理論 / 仮想基本類 / 壁越え公式 / ウーレンベック・コンパクト化 |
研究実績の概要 |
平成28年度は代数的研究を集中的に行った.これはImperial College LondonのRichard Thomas氏との共同研究として進め,その研究成果を2編の論文にまとめ,今年(平成29年)の2月にはarXivで公表した.この代数的研究は,スペクトル対応を通して射影曲面上のVafa-Witten理論とその標準束の全空間上のDonaldson-Thomas理論を結びつけるものである.我々は,まず半安定層を含まない状況を考察し,その場合,Vafa-Witten理論のモジュライ空間上に(対称)完全障害理論を構成できることを示した.さらに,仮想局所化の手法を用いることで射影曲面の変形不変量としてVafa-Witten不変量を定式化し,いくつかの場合にその分配関数の計算を行った.それらが20年以上前にVafaとWittenによって物理的考察から導き出された予想と一致することがわかったことは大きな驚きであった.さらに半安定層を含む場合の考察も行い,その場合もMochizukiあるいはJoyce-Songの方法を用いることでVafa-Witten不変量が定式化できることを明らかにした.
これらの研究に関し,共同研究者のThomas氏は昨年(平成28年)6月にParisで開催されたString Math 2016で我々の研究成果を報告し,研究代表者も今年の3月にUCLAで開催されたGauge theory and categorificationで研究発表を行い,関連する分野の最前線で活躍する研究者から多くのフィードバックを得ることができた.また,この報告書のリストに記載したものとは別に,研究代表者は,名古屋大学,東京工業大学,京都大学,北京大学でのセミナー,国立台湾大学における連続講義(1時間×6回),および国立清華大学での談話会でも一連の講演を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時の予定では,代数的Vafa-Witten不変量の定式化における半安定層を含む場合の研究は,平成29年度以降に行う予定であったが,Thomas氏との共同研究が予定以上に進展し,平成28年度内で半安定層を含む場合まで研究を進めることができた.
解析的研究に関しても上述の研究集会および国立台湾大学,Oxford大学,北京大学への出張における様々な研究打ち合わせ等を通して順調に進めることができた.また,この解析的研究の基礎の一つとなる論文がOxford University Pressが発行する学術雑誌The Quarterly Journal of Mathematicsの査読を通り掲載されることとなった.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,Harvard大学のTaubes氏および関連する研究者との研究連絡を取りながら,Vafa-Witten方程式の解析的考察に現れる特異集合に関する研究を進めていきたい.(これに関しては,最近,Taubes氏による大きな進展があり,今年(平成29年)の2月にはそのプレプリントがarXivに公表されている.)また,代数的研究に関しては,Oxford大学のJoyce氏のグループによるDonaldson-Thomas不変量に対する「圏化」の理論を我々のVafa-Witten不変量に対して展開する方策について,Joyce氏,Thomas氏および関連する研究者と議論を重ね,その研究を進めていきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
PC等電子機器の購入を平成28年度に予定していたが,それらの購入を平成29年度以降とすることにしたことが主な理由である.
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次年度使用額の使用計画 |
国内外の研究機関の訪問および学会等へ参加を通して行う研究発表・研究打ち合わせ・情報収集のための旅費として使用する.現時点では,まず,今年度前半のデンマークおよびフランスにおけるそれらの活動のための出張に使用する予定である.
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