研究課題/領域番号 |
16K05126
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
足立 俊明 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60191855)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 頂点推移的 / 隣接作用素 / 双対グラフ |
研究実績の概要 |
通常グラフのラプラス作用素は対称作用素でその固有値は実数であるが、ケーラーグラフのラプラス作用素は、確率的隣接作用素と確率的推移作用素が (1,1)-ステップの場合でも主グラフの隣接作用素と補助グラフの推移作用素の積として定義されていることから、一般には対称作用素ではなくその固有値は複素数になる。ケーラーグラフはケーラー多様体上に自然に誘導される磁場による軌道の離散化モデルとして導入されたものであるので軌道が作る平均作用素を調べると、磁力 k の場合の平均化作用素の双対作用素は磁力 -k の平均化作用素になる。この性質をケーラーグラフに当てはめると、主グラフと補助グラフを入れ替えた双対ケーラーグラフを考察することになる。 ケーラー多様体の中で対称性の高い複素空間形においては、磁力 k, -k の平均化作用素が一致することから、主グラフと補助グラフの隣接作用素が可換で確率的隣接作用素が双対グラフのそれと一致するという条件は、ケーラーグラフのある種の対称性を表していると考えることができる。他の対称性を表現する条件である頂点推移性と両立するケーラーグラフを構成することは、対称空間を考えることに相当すると考えて、頂点数と主辺・補助辺の次数を条件に構成の可能性を考察した。頂点数 n が4の倍数+1であれば、主辺・補助辺の次数が共に (n-1)/2 の可換条件を満たす頂点推移的な完全ケーラーグラフを構成できることがわかった。更に n が奇数で主辺・補助辺の次数が共に偶数であるか、n が偶数で主辺・補助辺の次数の内少なくとも1つが偶数であるか、n が4の倍数で主辺・補助辺の次数が共に奇数かつ和が n-2 になる場合は、可換条件を満たす頂点推移的ケーラーグラフが構成できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遅れている主因はプライベートな事由によるもので、研究計画を提出後父が急に体調を崩し看病の甲斐なく他界し、その後葬儀と相続の手続きで多くの時間を取られてこともあって、国内出張の多くを取りやめざるを得なかった。幸いなことに連携研究者の包図画准教授(内蒙古民族大学)が学期間の休みを利用して来日して1ヶ月ほど滞在してくれたので、当初の研究計画の今年度分と次年度分とを多くの部分で入れ替えて研究を行った。 まずケーラーグラフに関して、研究実績の概要でも述べたとおり頂点推移的で主グラフと補助グラフの隣接行列が可換であるようなケーラーグラフが構成できるための必要条件を得た。十分条件に関しては現時点では不明であり、今回の条件で判定できない部分は積型などの特殊な方法を考察する必要性までは検討できた。この内容に関しては論文にまとめている過程であり、次年度以降の固有値の比較の基準になるグラフを構成できた点で十分な進展が得られた。 連続モデルとしての佐々木磁場に関しては、入れ替えた次年度に予定していた計画以上の成果を得ることができた。佐々木磁場の軌道が外側から見ると円に見えるという条件で複素双曲空間内のA型超曲面の特徴付けを行い、計画していた等質超曲面の考察の半ばを達成することができたと言える。これらの結果については、国際研究集会「第5回微分幾何とその関連分野における国際会議」(ベリコタルノボ・ブルガリア)において口頭発表を行った。また得られた結果については学術雑誌に投稿し掲載された。 以上のように、国内出張の取りやめから情報収集をして考察を行う面では遅れているが、それ以外の面での成果としては計画以上の進展を得られた。
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今後の研究の推進方策 |
28年度はプライベートな事由で国内での情報収集やアドバイスを受ける機会を失い、29年度の計画との多くの部分での入れ替えを行った。このため29年度では改めて幾何学シンポジウム(金沢)などの機会に情報収集を行い、連携研究者などからアドバイスを受けて、ケーラーグラフの固有値についての考察を進める予定である。29年度の計画として 1) ラプラシアンの固有値の和と2色彩道の回帰率との関係を考察する 2) 主グラフと補助グラフの隣接作用素の可換性から、正則有限ケーラーグラフではラプラシアンが対称作用素となり固有値はすべて実数となるので、第2固有値に関してグラフの性質との関係を通常グラフの場合と対比させて考察する 3) 無限グラフの場合に等周定数や頂点数の増大度とラプラシアンのスペクトラムの下限との関連を確率的な重みを付けた境界を考えることで考察する、を予定している。連続モデルに関しては28年度に大きく進展したので考察の問題点を整理しながら、複素射影空間内の等質実超曲面についても考察を行う。 また、28年度に得られた結果を基にマルタで開催されるグラフ理論の国際研究集会で口頭発表を行う予定である。更に29年度前半までに行った研究の発表と今後の取り組みに対する海外の研究者の意見を聞くために、ギリシャで開催される国際研究集会にて口頭発表を行いたい。併せて得られた結果について学術雑誌に論文投稿を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況でも述べたようにプライベートな理由で予定していた国内出張の多くを取りやめ、それに伴って研究計画を28年度と29年度の大部分を入れ替えて実施した。このため研究室の学生を雇用して数式ソフトによる固有値の具体例の計算は29年度以降に実施することに成り28年度は行わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度に計画をしていて実施できなかった国内研究集会に参加しての情報収集や連携研究者からのアドバイスを受ける事を29年度に行い、それらを含めて29年度から30年度にかけて数式ソフトによる固有値の具体例の計算を行う。また、当初計画では予定をしていなかったマルタでの国際研究集会(平成29年6月26日~30日)に参加し研究の中間発表を行う予定で登録を行い現在審査結果を待っている。
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