研究課題/領域番号 |
16K05143
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
山田 裕一 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (30303019)
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研究分担者 |
山口 耕平 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (00175655)
丹下 基生 筑波大学, 数理物質系, 助教 (70452422)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 4次元多様体 / 3次元多様体 / デーン手術 / Kirby 計算 / 枠付き絡み目 / レンズ空間 / divide knot / 特異点論 |
研究実績の概要 |
デーン手術によって双曲的な結び目から“例外的に”双曲的でない3次元多様体が生じる現象は「例外的手術」と呼ばれ、低次元多様体論の1つの課題である。筆者はこの現象に関連する特殊な4次元多様体を構成したり分析したりすることを研究目標としている。H30年度は、前年度(H29)に学内の役職で研究活動が限られたことの反動として、意図的に研究成果の公表に力を入れた。以下、具体的な活動実績を述べる:1. 可縮だが球体ではない4次元多様体の表示で知られる Mazur絡み目を含む、ある絡み目の族について、例外的手術の分布に関する論文が学術雑誌(電子媒体)に掲載された。2. 前項の考察対象を別の絡み目族にも広げた。論文の執筆も進めた。これらの成果を国際集会「Four Dimensional Topology」と大阪大学「4次元トポロジーセミナー」で講演した。3. レンズ空間手術をもつ結び目の divide 表示の課題に関して、自分の古い結果を再認識し、「瀬戸内結び目セミナー」で講演を行った。未完成論文の修正も行った。4. 研究集会「微分トポロジー19」で、海外で話題となっている D.Gabai 氏の「4次元版電球定理」証明の解説を引き受け、日本語資料を執筆し講演した。5. 研究分担者の丹下氏が運営する若手中心の勉強会「ハンドルセミナー」に毎回参加した。うち1回では境界付4次元多様体の trisection に関する最新論文を紹介した。研究分担者の山口氏は、トーリック多様体X上の正則有理曲線のなす有限次元空間が、対応するCP^1からXへの連続写像のなす無限次元空間のホモトピー群をどの次元まで近似するか「Aniyah-Jone型予想問題」を考察した。 前年度の反動として成果の公表に力点を置き、論文掲載1件、学術講演4回の業績を遂げることができて満足している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の3年目の研究活動はおおむね順調と自己評価している。理由として:(1) 単著論文が学術誌に掲載された。(2) その研究は拡張が可能であり対象も広がっており、講演も依頼されて、手応えを感じている。(3) 過去の成果を再認識する機会にも恵まれた。前年度(H29)は本務先で役職を担い、学外での活動が制限された。そのことで逆に、研究室で研究を進めたり、論文を執筆したり、過去の成果を見返したりする時間が細切れながらにも増えた。それらが成果の公表に力点を置いた本年度の業績につながったと考えられる。本年度は、学外活動の時間も取ることができ、講演を4件行なった。特に、解説講演を2回経験して、反省はありつつも、要領が掴めてきた。手法は古いながら、慎重に複雑な議論を積み重ねて証明された「4次元版電球定理」の解説は研究者として励みになった。解説講演は研究分野への貢献と考えているが、自分の研究に直接的に結びつけることができればさらに良いので、これに期待したい。 内容的に、研究計画を変更する必要はないと考えている。特に、当面は上記(2)および(3)に挙げた成果の論文の完成を急ぎたい。前者(2)は、(1)の続編・拡張であり、計算や記述が複雑で証明のための作図も手間がかかるが、(1)の論文出版を機に勢いを得ているので、時機を逸せず取り組みたい。後者(3)は、図が肝心となる幾何的な結果であるが、論理的な説明を大幅に補うよう助言を受けた。これには時間がかかるかも知れない。どちらも必要とされる作業は明白である。 それらの他に、強く興味を引かれながら始めていない研究課題がいくつか残っている。新しいものでは、3次元多様体の不変量の高次元多様体を利用した微分幾何化など。本計画の研究期間の半分を過ぎた今、計画の完成は見えてきており、新展開の方向を探る時期に来たと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究の推進策として、特に研究活動の計画を変更する必要はないと考えている。日本数学会の委員を務めたことをきっかけに、他分野への関心が広がり、数学会に参加する意義が広まった。研究に良い影響が及んでいると感じている。まずは、秋の学会(金沢大)に講演応募したいと考えている。 日常の心がけとして、優先順序に注意して研究活動を行いたい。特に、研究と論文執筆、自分自身の成果発表と解説講演、など、対比で捉えて意識的な管理が必要かも知れない。大学教員としての仕事は複雑さを増して量も増えており、バランスの良い判断が大切になっているのを感じる。本務先では、同僚の定年を目前にした別の同僚の転出の影響が非常に大きいが、大学運営には「よくある出来事」に過ぎないだろう。研究を犠牲にしないよう心して取り組みたい。計算機環境の変化にも注意が必要である。本年度中に、使用済の計算機の廃棄方法についての不勉強に気づき、反省して作業にあたった。セキュリティのための日常的・継続的な情報収集や管理作業、環境の更新は、苦手ではあるが怠ることはできない。 研究テーマに変更はない:引き続き、2成分絡み目の例外的手術の4次元多様体論への応用を研究の主軸として進める。まずは本年度に出版された論文の続編として、その手法の適用対象を他の例に広げる研究に取り組みたい。並行して、過去の成果を見直して新たな価値を再発見し、現時点にふさわしい形に修正する試みも続けたい。実際、緩やかに進展があるので、これを完成したい。 本計画の研究期間は5年間なので、2019年度からは後半である。当初の計画の完成は見えてきた。内容的な仕上げを意識しつつ、新展開の模索を始めたい。研究環境の管理に十分配慮しながら、研究活動を続けたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の時点で、H29年度に役職のため多忙になり研究活動が制限されることは予想しており、予算を少なめに計画を立てた。その翌年にあたる本年度(H30)はその反動として、より多くの学外活動がしたいと期待していた。ところが実際には、研究室で研究を進め、地道に論文を執筆することが意外に捗り、その側に傾倒した。H29年度の秋に膝の治療で1つの海外出張を断念したことも関係がある。 もう1つの理由は、過去数年の少額の次年度使用と同一の理由である。筆者はH27年から3年間毎年、丹下基生氏、安部哲哉氏(現:立教大)と 研究集会「微分トポロジー」を開催してきた。開催時期は毎年3月中旬または下旬、日本数学会の会合に近づけて遠方の研究者が参加しやすいよう工夫した。筆者はH29年度から上記の理由で世話人から離れたが、この集会を応援し期待する気持ちは変わらない。本年度(H30)は解説講演を引き受け、集会後のセミナーも含めて全日参加した。年度末開催のため、予算を過不足なく使うのは難しいが、年間を通して最も有意義とも思えるこの活動を今後も大切にしたい。
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