研究課題/領域番号 |
16K05146
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上 正明 京都大学, 理学研究科, 教授 (80134443)
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研究分担者 |
加藤 毅 京都大学, 理学研究科, 教授 (20273427)
藤井 道彦 琉球大学, 理学部, 教授 (60254231)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 3次元多様体 / 4次元多様体 / Seiberg-Witten理論 / ザイフェルト多様体 |
研究実績の概要 |
3,4次元多様体のトポロジーの研究を継続した.特にザイフェルト有理ホモロジー球面と呼ばれる3次元多様体のクラスに対して定義されるmu不変量と呼ばれる不変量とHeegaardフレアホモロジー理論に由来する補正項不変量(d不変量)との関連をエータ不変量と呼ばれる解析的不変量を介して関連づける結果を2015年にプレプリントにまとめ,その結果をより拡張させる方向で研究をすすめた.両者は「ホモロジーコボルディズム不変」という共通の性質をもつが,値は一般に異なりその関係は今でも完全には解明されていない.一方2013年にManolescuが一般のホモロジー3球面にたいしてbeta不変量と 呼ばれる不変量を定義し,5次元以上の位相多様体の単体分割予想を否定的に解決した.この不変量も前2者同様ホモロジーコボルディズム不変であるが,前2者とは一般に一致しない.2015年にManolescuの結果を発展させてザイフェルトホモロジー3球面を含むグラフ多様体のかなり広いクラスに対して上述のmu不変量とbeta不変量が一致すること,しかしそれらの連結和をとることで一致しない例も豊富にあることなどが示された(I. Dai, Stoffregenの結果).彼らの結果はSeiberg-Witten Floerホモトピータイプの理論,およびd不変量との関連はSeiberg-WittenフレアホモロジーとHeegaardフレアホモロジーの等価性(Taubes等)にもとづくが,研究代表者の手法はSeiberg-Witten方程式の有限次元近似の手法にもとづく.両者の関係を解明することが今後の課題になっている.一方以前からの懸案である4次元多様体に関するテキストの執筆をすすめ,上記のSeiberg-Wittenフレアホモロジーに関する記述を拡充するなどして完成に近づけた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2015年にザイフェルト有理ホモロジー3球面の古典的不変量であるmu不変量とHeegaardフレアホモロジー理論に由来するd不変量との関連についてプレプリントをまとめた後,その結果を拡充しManolescuが2013年に導入したbeta不変量などとの関連について考察をすすめるところであったが,2015年にStofferegen, Dai等によりmu不変量とbeta不変量の関係をかなり広いクラスで明らかにする結果が発表されたことにより,これらを考慮にいれて研究方針を再度構築しる必要に迫られた.彼らはこれらの不変量とd不変量の関係も一部明らかにしたが,その結果はSeiberg-Witten理論とHeegaardフレアホモロジー理論におけるフレアホモロジーの等価性というKutluhan-Lee-Taubesによる膨大な理論にもとづき,それらをManolescuのSeiberg-Wittenフレアホモトピータイプの理論と結びつけるもので,研究代表者が利用したSeiberg-Witten方程式の有限次元近似の手法とは関連があるはずだが,その点は十分解明できていない.一方4次元多様体のテキストの執筆については,Heegaaardフレアホモロジー理論に基づいてOzsvathとSzaboが導入した4次元多様体の不変量がwell-definedかという問題が長らく未解決であったため,その取り扱いを保留したままだった.しかし2015年にその問題を解決する結果(Zemkeによる)が現れて完成させる目途がついたところである.
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今後の研究の推進方策 |
3次元多様体の手術の不変量の関連に関する研究を継続する.特に直近の課題としてザイフェルト3球面を含むグラフ多様体のクラスに対して定義されるmu不変量とd不変量, beta不変量等との関連を追及したい.2015年以降にこれらに関して現れta Dai, Stoffregen等の結果は,ManolescuによるSeiberg-Wittenフレアホモトピー型の理論,Kutluhan-Lee-TaubesによるSeibert-WittenフレアホモロジーとHeegaardフレアホモロジーの等価性の理論などの膨大な理論を背景にしており,これらの結果を十分吸収して研究代表者が従来から用いてきた手法との関連を解明する必要がある.なおこれらの不変量はすべての3次元多様体で一致するわけではなく,上記のDai, Stoffrgenの結果もすべての例を解明したわけではない.この点でこれらの不変量の関連をさらに研究する余地は十分にあると考えられる.またこれらの不変量はmu不変量を除いて計算は用意でない.前述の結果によってbeta不変量の具体的計算結果が始めてある程度出現したといえるが,この点をより組織的に解明することを目標にしたい.また4次元多様体のテキストの執筆に関連して,Ozsvath-Szaboが導入したHeegaardフレアホモロジー由来の4次元多様体の不変量のwell-definednessがようやく証明されたことに伴い,これを用いた4次元多様体の不変量の計算が正当化されることになった.そこでこれらを用いた4次元多様体の構造の研究も進めたい.この不変量はSeiberg-Witten不変量と等価と予想されているがまだ完全には証明されていない.しかし後者より組み合わせ的に計算できるため,多くの議論をより容易にすることが期待される.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究交流,新たな研究の動向を知るための研究集会への参加を行ったが,今年度は研究代表者の専門分野に近い研究集会の多くが近郊で行われたため,出張のための旅費の使用額が予想より少なかった.また2015年以降に関連する研究分野に予期しない進展があり,研究計画を再度見直す必要に迫られたため,参加する研究集会への参加自体が例年より少なくなり,研究発表のために行うべき費用の使用も少なくなった.
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度以降に出現したあらたな研究動向をふまえて研究を推進する一助とすべくより多くの研究動向の収集や意見交換のため研究集会への参加を活発化させる.特に次年度は今年度ほど関連する研究集会が近郊に集中しておらず,旅費の使用が増えると思われる.また2016年度は見送っていた設備更新については,コンピューターや関連する機器の一部が更新すべき次期を迎えており,設備に関わる費用が増える見込みである.
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