3次元球面内の結び目に対して,その補空間の基本群を結び目群とよぶ.最終年度は,共同研究者とともに,主として2つの問題に取り組んだ. 1つめは,結び目のデーン手術によって得られる3次元多様体の基本群が含む共役ねじれ元の構成問題である.デーン手術によって得られる3次元多様体の基本群は,元の結び目群の商群になるため,結び目群に共役ねじれ元があって,それがデーン手術後も生き残る場合と,結び目群には共役ねじれ元がないのだが,デーン手術後に何らかの元が共役ねじれ元になる場合がある.我々は,結び目を境界にもち,自己交差をもつような円盤が結び目と同じ方向にのみ交わるとき,その交点数に応じてデーン手術係数がある値以上であれば,生じる3次元多様体の基本群に共役ねじれ元を構成できることを示した.これは,共役ねじれ元の幾何的な意味が不明である現段階において,1つの解釈を与えるものである.同時に,このようにして得られる手術係数の範囲よりも広い範囲に対して,種数1の2橋結び目に限ってではあるが,群表示を用いた複雑な計算に基づいて共役ねじれ元を構成することができた.後者については幾何的な解釈ができていない. 2つめは,結び目群に含まれる非自明な元が,デーン手術によって,いつ自明化されるかという問題である.非自明なデーン手術をしても自明化できない元として,結び目群のメリディアンが挙げられる.その共役元を取ることで,同じ性質をもつ元を無限に得ることが容易にできる.この事実を改良して,互いに共役でない元で同じ性質をもつものを無限に構成することに成功した.さらに,ホモロジー的に自明である元や,指定したホモロジーの元を代表するように制御することを行った.この課題については,今後も研究を継続したい.
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