研究実績の概要 |
研究代表者が最近発見した, 曲面の写像類群における線型性の視覚化の観点から生じる問題のうち, 主に曲線加群の基礎とその応用, ならびに Johnson filtration と幾何的交叉の関係について, 位相幾何的に研究した. 詳細は以下の通り.
1. 曲線加群の基礎理論に関して: すでに示した通り, 忠実な場合には曲線加群が内在的に持っている, 曲面内の単純閉曲線のあいだの幾何的交叉の情報が, 一般の曲線加群上で常に定義される, 写像類群で不変な或る線型形式にどのように反映するかを主に考察した. 2. Johnson filtration と幾何的交叉の関係を明らかにするために, Kawazumi-Kuno によるデーンツイストの対数理論を援用し, 基本群の巾零商への作用が, デーンツイストに係わる単純閉曲線の, 基本群の巾零商における共役類をどの程度定めるかを検討した. その結果, これまでの予想に反し, 前者が後者を定めない反例の存在が明らかになった. このため, この場合にあらかじめ予定していた, 幾何的交叉数の評価に係わる或る位相幾何的理論の検討を開始した. 3. その他, 曲面の写像類群について, Luoの構成した曲線加群の性質, 量子射影表現の性質, 低次元の複素線型表現の分類など, 関連する位相幾何的問題を検討した. 特に, 写像類群の低次元複素線型表現の分類については, これまでに得られている知見を整理した上で, 表現空間の次元を上げる方向の拡張を試み, 一定の成果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は, 数学理論についての基礎研究で, その対象は本質的に予測不可能なものであり, 試行錯誤により知見を積み重ねてゆく性質のものである. その試行錯誤の概要は, 「研究実績の概要」に述べた通りであるが, そうした中, 特にデーンツイストに係わる単純閉曲線の, 基本群の巾零商への作用が単純閉曲線自身の巾零商における共役類を定めないことを明らかにすることができ, Johnson filtration と幾何的交叉の関係について検討すべき問題点を明らかにすることができた.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は平成28年度の研究結果を踏まえ, 次の各研究項目について, 必要に応じて変更しながら継続発展させる. 1. 曲線加群の基礎理論の整備. 2. Johnson filtration と幾何的交叉の定性的研究. 3. 写像類群の低次元線型表現の分類の拡張. 4. 関連する諸理論の検討 特に,Johnson filtrationと幾何的交叉の関係については,デーンツイストの対数理論のみに依存した代数的考察から, より幾何的な考察に移行しつつ,そのassymptotic behavior の決定を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
次の2点による: 1) 今年度行う海外出張の旅費を確保していたが, 他の研究費等からの補助が得られたため, 実際の支出が少なくなった; 2) 今年度得られた研究結果に基づいて, 新たに海外の研究者と研究打ち合わせを行う必要が発生し, そのために次年度以降に必要な金額が増加した.
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画遂行のために, 関連文献の調査のために必要な, 関連する図書等を適宜購入する. また, 必要に応じて計算機環境を充実させる. 更に, 国内・外で行われる研究集会, 学会等に参加, 或いは主催すること, 或いは個別の研究者との研究打ち合わせにより, 新しいアイデアを出し, また軌道を修正しながら研究の新しい方向を探るために特に重要な, 他の研究者と知見の交換を行いつつ, 得られた成果については順次発表する.
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