研究課題/領域番号 |
16K05156
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
廣瀬 進 東京理科大学, 理工学部数学科, 教授 (10264144)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 低次元トポロジー / 写像類群 / リーマン面 / 代数曲線 / 周期的写像 / 擬アノソフ同相写像 / 分岐被覆空間 / 結び目 |
研究実績の概要 |
写像類群と結び目に関して主として次の研究を行った: 1)有向閉曲面上の有限群作用のデーンツイストによる表示の研究:今年度は,種数3の閉曲面上の有限群作用の中で包含関係のもと極大となっているもの全てについてデーンツイスト表示を求め,その結果,全ての有限群作用についてデーンツイスト表示を求めることができた.さらに,より大きな種数の有向閉曲面についても有限群表示を求めるための予備的な考察を行った.特に,種数7の場合のフリッケ-マクベス曲線や,種数4の場合のブリング曲線の自己同型群について考察を行った. 2)エントロピーの小さい擬アノソフ元の構成に関する研究(金英子氏(大阪大学)との共同研究):写像類群の部分集合におけるエントロピーが 1/g と漸近的である擬アノソフ元の系列の存在と構成について研究を引き続き行った.とりわけ,構成方法について詳細な考察を行い,次の部分集合については,同様な構成方法によりエントロピーの小さな擬アノソフ元の系列が得られることが分かった(1)スピン写像類群(2)3次元球面の2重分岐被覆として現れる曲面束のモノドロミー. 3)結び目の FPB表示と Arf 不変量についての研究: 任意の結び目に対して FPB 表示とよばれる明快な表示が存在することが,小林・平澤・降旗の3氏によって示されている.一方,FPB 表示をもとに定まる結び目のある種の同値関係のもとで同値であることの必要十分条件が Arf 不変量が一致することであることが中島雄介氏との共同研究により示されていた.今年度は,名古屋工業大学における Knotting Nagoya (結び目の数理セミナー )の一つとして FPB 表示に関するワークショップを行うとともに,FPB 表示から Arf 不変量を求める簡明な公式を求めることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の理由より,研究は概ね順調に進展していると判断した. 1)種数3の閉曲面上の有限群の作用のデーンツイスト表示を完成することを通じて研究の方法を発展させることが出来,より高い種数についての予備的な考察を行い,今後の進展が見込まれるようになったこと. 2)エントロピーの小さい擬アノソフ元の系列の構成法についての考察を通じて,このような系列が存在するための条件が見えてきて,さらに,系列自身の特徴づけなどについても考察でき,写像類群についての力学系的な研究を発展させる可能性が見いだせたこと. 3)結び目や絡み目についてのFPB 表示に関するワークショップを名古屋工科大学で行い,この表示の研究を進展させる可能性が見出すことが出来,特に,田神氏などの研究から,接触構造の幾何学と関連させた研究の可能性も明らかになってきたこと. 4)作間誠氏により任意の3次元多様体の2重分岐被覆として曲面束が現れることが示されていた.今年度は,特に,3次元球面の2重分岐被覆として現れる3次元多様体について,この事実を簡明かつモノドロミーが明確にわかる形で示せ,今後の研究の発展が望めるようになったこと.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で得られた知見を元に,位相幾何学的な観点からの写像類群や結び目等の研究を引き続き行う.具体的には例えば以下の研究を行う. 1)3次元多様体の2重分岐被覆として現れる曲面束のモノドロミーついての研究:今年度行った3次元球面の2重分岐被覆として現れる曲面束のモノドロミーの擬アノソフ元についての研究を更に推進し,3次元球面以外の3次元多様体についての同様の研究,とりわけファイバーの種数を増大させた際の最小拡大度の漸近的挙動について考察する.特に,レンズ空間等の3次元球面の2重分岐被覆になっている3次元多様体については,今年度得られた知見を基に研究が進展することが期待できる. 2)閉曲面上の有限群作用の研究:今年度,種数3の場合の研究がひとまず完成したので,今後は,より大きな種数の場合の研究を進展させるとともに,4次元多様体内に埋め込まれた曲面の対称性やレフシェッツファイバー空間について関連した研究を推進する. 3)絡み目の FPB 表示とパス同値に関する研究:今年度,結び目の FPB 表示からパス同値類を完全に判定する値である Arf 不変量を求める簡明な公式を求めたことを発展させて,今後は,2成分以上の絡み目について,FPB 表示からパス同値類を完全に判定する方法について考察する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(次年度使用額が生じた理由)次の3点から,次年度使用額が生じた.1)今年度予定していた国内や海外出張の計画が取りやめになってしまった事.2)購入を予定していた計算機等について,種々の使用状況を考慮して,次年度まで検討を持ち越した事.3)今年度得られた知見について研究集会で発表を行い,さらに研究打ち合わせを行う予定がある為に,来年度多くの金額が必要になった事. (次年度の使用計画)1)東京理科大学で行うトポロジーセミナーのため,最先端の研究を行っている研究者を招聘する.2)写像類群や結び目理論を中心とする位相幾何学の諸分野について最新の成果を学び研究成果を発表する為,他大学・研究機関(海外を含む)へ出張する.3)写像類群や結び目理論を中心とする位相幾何学の諸分野について研究打ち合わせを行うために,国内外の研究者を招聘する.4)写像類群や結び目理論の研究を進展させる為の最新のソフトウェアーを利用する為の最新の電子計算機を購入する.
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