研究課題/領域番号 |
16K05157
|
研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
林 忠一郎 日本女子大学, 理学部, 教授 (20281321)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 自明結び目 / カンドル |
研究実績の概要 |
結び目とは3次元空間内の輪であり、切ったり繋いだり通り越したりさせずに連続的に動かしても同じものと見なす。その変形で平面上に交差点無しで乗せられる結び目は自明結び目と呼ばれ、ほどける結び目である。DNAの1%は結び目の輪になっているという説もあり、人工的に輪にしたDNAに酵素を働かせると、酵素の働き方がよく分かるという研究もある。与えられた結び目が自明であるか否か判定することは重要な課題であり、既に自明結び目のほどき方を求める有限アルゴリズムは複数発見されているが、或る有限な範囲を虱潰しに調べる方法しか知られておらず、どんな見た目に絡まった自明結び目の図に対してもそれをほどく方法を明示的に与えるアルゴリズムはまだ無い。2つの結び目の図が同じ結び目を表すとき、その片方に3種類の基本変形(R変形)を有限回うまく組み合わせて適用するともう一方の図に変形できることが知られている。このR変形から由来するカンドルと呼ばれる代数(集合に或る種の良い演算が入ったもの)が定義され、特に、結び目の図に対して定義される結び目カンドルは結び目を完全に分類することがJoyceやMatveevによって示された。つまり、2つの結び目の図が同じ結び目を表すことと、それらの結び目カンドルが同型であることは同値である。結び目カンドルは結び目の図のカンドル彩色の特別な場合であり、カンドル彩色は与えられた結び目がほどけないことを示すのに良く用いられる。本研究の目的はカンドル彩色を用いて結び目がほどけることを示し、ほどき方も調べることである。平成29年度は、前年度までのプログラムでは自明結び目であることを判定できない自明結び目の図を発見した。与えられた結び目の図の「任意のカンドルによる任意のカンドル彩色が満たすべき条件を記述する仕組み」を形式化したものを定義し、それがR変形によってどのように変化し得るかも研究した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
カンドル彩色では結び目とその図に輪を一周する向きを付ける。結び目がほどけるか否かは向きに依らない。結び目の図は交差点の下で切って描かれ、いくつかの曲線分に分かれる。カンドル彩色は向き付き結び目の図の各曲線分に対してカンドルの要素を1つずつ対応させる。ただし、各交差点においてカンドル演算に則した「交差点条件」を満たさねばならない。R変形には1角形領域や2角形領域を作ったり消したりするR1変形やR2変形、3角形領域を移動させるR3変形がある。全ての交差点に於ける交差点条件を連立させたものがR変形の前後で同値であるように、カンドル演算と交差点条件は定められている。 カンドル彩色はその曲線分の各々にカンドルの要素を対応させる。自明結び目の図のカンドル彩色は自明なものしかなく、つまり、どの曲線分にも同じ要素を対応させてしまう。逆にどんなカンドルを用いても自明彩色しか持たない結び目の図は自明結び目を表す。 コンピューターによって、平成28年度までに11個以下の交差点を持つ自明結び目の図で、R変形で直ちに消すことができる1角形領域や2角形領域を持たないもの全てに対して、その図が自明結び目であることを上記の方法で判定できることを示した。平成29年度はさらに数多くの自明結び目の図をコンピューターで調べ、平成28年度に作成したプログラムでは自明結び目であることが判定できない自明結び目の図を発見した。それは17個の交差点を持つ。任意のカンドル彩色が自明であることを示す際に、カンドルの演算表の一部分のまだ演算結果が未定の空いた升目を新しい番号で埋めるのだが、その埋め方に工夫の余地があると分かった。 一般論として、平成29年度は、結び目の図に対してあらゆるカンドルによるあらゆるカンドル彩色が満たすべき条件を記述する方法を形式化したものを考え、それが3種類のR変形でどのように変化しうるかを調べた。
|
今後の研究の推進方策 |
任意のカンドル彩色を考える。まず、結び目の図の各曲線分にカンドル彩色が対応させるカンドルの要素に番号(名前)を付ける。異なる曲線分にカンドルの同じ要素が対応することもあるが、現時点では異なる名前を付けておく。使われた番号のみの範囲で演算表を作る。この演算表はカンドルのごく一部分しか表さず、演算表に現れない要素は他にもある可能性がある。演算表の幾つかの升目はカンドルの公理のR1変形に対応する条件と、交差点条件から埋まる。カンドルの公理のR3変形に対応する条件に基づいて演算表の升目を埋めていく。多くの場合は途中で計算が止まり、進展が無くなる。しかし、空いている升目にカンドルの要素を表す新しい番号を埋めてその要素の分だけ演算表を拡張すると升目を埋める計算に再び進展が見られるようになる。問題はどの空欄を新しい番号で埋めるかである。平成28年度までは調べた全ての結び目の図に対して、演算表の上手い1~2列を選んで升目を新しい番号で埋めると計算に進展が見られ、自明結び目の判定が成功した。平成29年度の研究では、2列の空欄を新しい番号で埋めるだけでは演算が進展しない自明結び目の図を発見した。3列以上の空欄を埋めるか、または、今までの計算データを参考にして、列に拘らずに空欄を有効に埋める方法を探す。 空欄を新しい番号で埋めるのは2角形領域を作るR2変形に対応する。計算はR3変形に対応する。その結果、同じ列に同じ番号が2つ現れたらその2つの行に対応するカンドルの要素が同じものであることが分かり、演算表を縮小する操作が2角形領域を消すR2変形に対応する。これはカンドルの公理のR2変形に対応する条件に基づく。結び目の図のR変形は1角形領域を作るR1変形、2角形領域を作るR2変形、R3変形、2角形領域を消すR2変形の順で行えば良いことをCowardが示した。一般論に関してはその研究も参考にする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度はMathematicaを大学で購入しなくなったので、予定を変更して科学研究費補助金でMathematicaを購入することになり、コンピューターを購入できなかった。Mathematicaの金額は決まっており、割り切れなかったので残金が生じた。平成30年度は新しいコンピューターを導入したいと考えており、残金は少しでも計算の速いコンピューターを購入するために有効に使用したい。
|