結び目とは3次元空間内の輪であり、自分自身交わらせずに連続的に動かしても同じものと見なす。人工的に輪にしたDNAに酵素を働かせると、酵素の働き方がよく分かる。平面上に交差点無しで乗せられる結び目は自明結び目と呼ばれ、与えられた結び目が自明か否か判定することは重要であり、有限アルゴリズムが幾つか知られているが、いずれも或る大きな有限の範囲を虱潰しに調べる手続きが含まれているところが不満である。今回の研究の目的はカンドルと呼ばれる代数を用いて与えられた結び目が自明であるか否か判定し、自明ならほどくための紐の動かし方を明示的に与えることである。カンドルとは結び目の射影図の基本変形(ライデマイスター変形)に由来する関係式を満たす代数であり、特に、結び目カンドルは結び目を完全に分類する。カンドルは射影図が非自明結び目を表すことの証明によく用いられるが、実は、射影図が自明結び目を表すことの証明にも使えることに気づいた。非自明結び目の射影図は何らかのカンドルによって非自明に彩色されるので、どんなカンドルを用いても自明な彩色しか持たない射影図は自明結び目を表す。射影図の各曲線分に対して、カンドルの元を1つずつ対応させたもので、全ての交差点において交差点条件と呼ばれる関係式を満たすものは彩色と呼ばれる。2つ以上のカンドルの元を用ると非自明彩色と呼ばれる。任意の彩色を考え、射影図の各曲線分に対して対応させられたカンドルの元たちの範囲で演算表を書く。交差点条件から、演算表のマス目の幾つかが埋まる。空欄の幾つかを選んでその元に新しい名前を付けて演算表を拡張すると計算が進んで、自明結び目の場合は全ての元が実は同一のものであったことが分かる。平成30年度は、この方法では幾らでも多くの空欄を埋めないと自明結び目であることが判定できない射影図の無限列の候補を構成したが、まだ数学的な証明はついていない。
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