研究課題/領域番号 |
16K05164
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
洞 彰人 北海道大学, 理学研究院, 教授 (10212200)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 漸近的表現論 / ヤング図形 / 自由確率論 / 巨大な群 / マルコフ連鎖 |
研究実績の概要 |
無限対称群、無限環積群、無限ユニタリ群のような帰納極限群に代表される巨大な群は、表現論的にワイルドにふるまい、それらの群の作用が内包する構造は深遠である。表現のもつ統計量としての性格に着目し、確率論の視点を導入してこれらの構造を理解しようとするのが、ヴェルシクに始まる所謂漸近的表現論の骨子である。本研究の主目的は、大数の法則、中心極限定理、大偏差原理といった確率論の色々なレベルの極限定理に立脚した手法を用いて、群の表現に関係する様々な特性量の(時空や他のパラメータに沿う)漸近挙動の解析を行うことである。特に、表現論的に興味深い多くの特性量がヤング図形によってエンコードされることに着目し、ヤング図形の群論的な統計集団における解析を展開する。 平成29年度に主に取り組んだのは、ヤング図形のコーナーセルのランダムで非局所的な移動によって生じる連続時刻のマルコフ連鎖の動的スケーリング極限のモデルである。表現の言葉では、対称群の帰納的な列において既約表現の制限と誘導の分岐則が与えるマルコフ連鎖を考察することであり、漸近的表現論の立場から見れば、単純かつ自然な対象である。研究代表者のこれまでの研究により、この制限誘導連鎖のモデルに対し、時空に関する拡散的スケーリング極限を通してえられるヤング図形の極限プロファイルの巨視的な時間発展について、ある程度の性質が解明されてきた。 平成29年度は、この極限プロファイルのゆらぎの時間発展を考察した。長時間極限の(定常的な)ゆらぎはプランシェレル測度によって記述されるのでよく研究されているが、有限の巨視的な時刻におけるゆらぎの性質はほとんど調べられていない。ヤング図形の情報と等価であるケロフ・オルシャンスキー代数の生成元たちの共分散の構造がわかりつつあるが、研究は継続中である。また、変分問題の観点から見た極限プロファイルの時間発展の研究にも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題名にある「深化」と「展開」の両面において、一定の進展が見られた。解決の難しさを感じている問題もあるものの、次年度の研究につながる新たな課題の方向性も得ることができた。 研究経費の執行に関しても、特段の問題はなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の交付申請書において、漸近的表現論の深化と展開のため、ヤング図形の群論的な統計集団における極限プロファイルの時間発展の研究と、コンパクト群の増大族の帰納極限に関わる調和解析の研究の2つを主要な研究テーマに設定した。平成30年度もこの基本方針に沿って研究を継続する。具体的には、平成29年度から継続中の問題、すなわち、極限プロファイルのゆらぎの時間発展を明快に記述することと、変分問題に関わる観点(たとえば対数的エネルギーの時間発展の様子)を導入した研究を進める。 さらに、平成30年度の研究実施計画の欄に述べたように、この2つの対象ないしは方法を融合させる場として、分岐グラフのマルチン境界上の測度(高次元の点過程)の時間発展を含めた確率解析や調和解析の展開も視野に入れ、複合的な研究を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 平成29年度単年で見れば、当初の計画の1割増しくらいを使用しているので、だいたい予定通りと言えるが、平成28年度から平成29年度への繰り越し額が相当額あったことが、今回の次年度使用額が生じた大きな理由である。 (使用計画) 活発な研究交流のための招聘旅費等を充実させるのにあてたい。
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